過去の連載
第3回 『再考:働き方改革 「学校でやれることはやり尽くした」は本当か』
第4回 『教育委員会はなにするところ?学校改善の伴走支援者としての教育行政』
第7回 『「わかっていても実行できない」をどうするか』
■夏休み、ゆっくりできていますか?
前回のコラムで、学校や先生たちの仕事、業務の仕分けがもっとできないか、という話をしました。
先日も「夏休み中は校庭開放して、地域の方がラジオ体操をしているので、副校長・教頭は早朝から出勤です」という話を聞きました。「え~、学校を巻き込まなくてもどっかの公園でやればいいじゃないですか」と思ったのは私だけではないと思います。百歩譲って学校利用するとしても、地域主体なのですから、地域の管理下とするべきです(副校長・教頭が出ていく必要はないようにしたい)。
ここ数年で話題なのは、プールの管理ですね。プールの清掃、水質チェックなど、業務は多岐にわたります。水を出しっぱなしにしたということで、自治体から校長や教員は賠償請求されかねないケースも。学校でプールを維持管理する必要はあるのだろうか、教員がやらなくてもいい仕事なのでは、という話が各地で出ています。熱中症リスクも高いなか、学校のプール開放(保護者主催など)をやっているところもあるのでしょうか?教員の関与が残っているところもありますでしょうか?
ちなみに文科省は「学校における働き方改革に配慮した学校プールの管理の在り方について」という通知を出しています(令和6年7月10日)。下記のように記載されています。
学校設置者による必要な支援やチェック体制の構築等が十分に行われないまま、特定の教師等に学校プールの管理が任せられ、教師等が損害賠償の責めを負う恐れもある中で勤務する状況は望ましくありません。こうした学校プールの管理業務に関する教師等の負担を軽減するための取組として、指定管理者制度を活用したり、民間業者へ委託したりすること等を通じて教師等の負担を軽減することが考えられます。
参考:https://www.mext.go.jp/content/20240717-mxt_syoto01-000037116_10.pdf
■The Knowing-Doing Gap
とはいえ、文科省は通知文を送り付けるだけなのだから、ラクなもんだよな、と思った人もいるのではないかと思います。関連して、次のことを思い出しました。
すばらしいアイデアも、読んだり、聞いたり、考えたり、書いたりするだけではだめだ。
(ジェフリー・フェファー他著『なぜ、わかっていても実行できないのか―知識を行動に変えるマネジメント』)
この一節に出会ったとき、ドキッとしました。私は、これまで本を書いたり、教職員向けの研修講師をしたりして、いわば“すばらしいアイデア”を売る、広めることを仕事にしてきたのですから。
なぜドキッとしたのか。それは、100枚近い資料を作って理路整然とプレゼンしても、あるいは一度に数百人をアツくする講演ができたとしても、相手が動かなければ、学校も、その先の子どもたちも変わらないからです。「今日はいい話が聞けたなあ」「とても満足した」とは言ってもらえるし、アンケートでも多くがそう答えてくれるのですが、それだけでは不十分。私はカウンセラーでも、落語家でもないのですから。ウケると嬉しいですけど。
学校・教職員の負担軽減や仕事の見直しについても、アイデアだけではダメです。
先ほどの一節は、ジェフリー・フェファー他著『なぜ、わかっていても実行できないのか ― 知識を行動に変えるマネジメント』(長谷川喜一郎・菅田絢子訳、日本経済新聞出版社、2014年)という本から。もともとのタイトルは“The Knowing-Doing Gap„です。つまり、知ること、あるいは知った気になることと、行動に移せるようになることの間には、大きな溝がある、ということです。
明代の儒学者、王陽明は、「行わなければ、知っているとは言えない。知っていても、行わなければ、知らないのと同じである」との名言を遺しています(「知行合一」)。
■わかっていても実行できない状態を脱するには
こうした悩みは、おそらく私だけでなく、読者を含めて、かなりの学校や教育行政にも言えることではないでしょうか。たとえば、多くの教職員は、子どもたちの主体性を伸ばしたい、児童生徒の意見をなるべく尊重したいと考えているでしょう。にもかかわらず、必要性の乏しい校則が一部に幅をきかせているのは、知行合一とは言えません。
話を業務の見直しや働き方改革に戻すと、私が研修などをすると、さまざまなアイデアが出てきます。たとえば…
- ● 研究授業や研究大会について、もう少し負担を減らしたい。
- ● 通知表の所見を毎学期から年1回に減らしてもいいのではないか。
- ● 陸上記録会や水泳記録会はやめてもいいのではないか。
- ● 少子化で教員数も減っているのに、部活動を幅広く展開し過ぎているのではないか(減らすこともやむを得ない)。
- ● 高校生も疲れているのに、7時限目までの授業や補習を続ける必要はあるのだろうか。
こうしたアイデアのなかには、何も私が研修をしなくても、以前から思いついていたものもかなりあったはず。だが、何年も実行できないでいます。
業務の見直しや働き方改革の実行力を高めるためには、どうしたらよいでしょうか。言い換えれば、わかっていても実行できない状態から脱するにはどうしたらよいだろうか。
私は、3つのことが重要だと考えています。
第一に、当事者意識を高めること。ここは、「Why 働き方改革?」という点に関わり、これまでの本連載の第1回(第1回『ノンストップな日々、働き方をみつめなおす理由』)や書籍等でも強調してきたことなので繰り返しません。「一般の教職員には関係がない、管理職が考えていくことだ」といった認識では困ります。
第二に、先例から学びつつ、スモールステップから試すこと。働き方改革、業務改善は、教職員の不安との闘いでもあります。「保護者のクレームが増えるのではないか」「児童生徒が残念がるのではないか」など。こういう気持ちはよくわかりますが、やってみると案外大丈夫だったという事例も多いです。
とはいえ、リスク感覚は大事にしつつも、前例のないことだって、小さくでも始めてみればよいのです。たとえば、3カ月間の「試行期間」を設けて、必要なら軌道修正を図るということでよい。
第三に、アイデア出しで終わらせず、チームを組成したうえで、ときどき進ちょく確認をすることです。研修会当日は盛り上がったが、その後、ほったらかしという例は多いのではないでしょうか。そして、学校は、毎日がまるで台風のときのように慌ただしいし、イレギュラーなことが頻発しますので(子どもを相手にしている仕事なので当然といえば当然です)、ついつい、業務の見直しといったことは、あと回し、あと回しになりがち。なので、月に1回は集まって、進ちょくを確認する、困っていること、つまずきがあれば皆でアイデアを出すといった場をつくることが大切です。子どもたちへの宿題も出しっぱなしにはしないですよね。それと似ているように思います。
以上3点心がけてみてください。みなさんからもお気づきのことや実践例などありましたら、ぜひお寄せください。
参考文献
妹尾昌俊(2023)『思いのない学校、思いだけの学校、思いを実現する学校』学事出版
https://www.gakuji.co.jp/book/b10034371.html
妹尾昌俊(2021)『こうすれば、学校は変わる──「忙しいのは当たり前」への挑戦』教育開発研究所
https://www.kyouiku-kaihatu.co.jp/bookstore/products/detail/516


