第1回 『ノンストップな日々、働き方をみつめなおす理由』
■「6分と8分」、「小学校教諭の41%は〇〇」
「これは何の数字でしょう?」というクイズを、わたしの講演・研修でよくやっている。6分は公立小学校の、8分は公立中学校のある数字。41%は公立小学校の学級担任(教諭)が〇〇である、という数字。なんだろう?
6分、8分について、よく出てくる答えのひとつは「先生が給食を食べているというもの。わたしはこう返答する。
「たしかに早食いの先生は多いですよね。早めに済ませて児童のおかわりの世話をしたり、ちょっと気になる子に声をかけたり。あるいは丸付けをしたり。食育もへったくれもない。でも、給食を食べている時間という統計・調査は、わたしは見たことがありませんから、6分、8分なのかはわかりません。」
ピンと来た方もいるかもしれない。6分、8分の答えは教員の1日の休憩時間(平均)だ。2016年実施の教員勤務実態調査による。直近の22年実施の実態調査でもほぼ同様の結果であった(小学校教諭は5分、中学校教諭は7分)。ここ5年あまり、学校における働き方改革の必要性はずいぶん言われるようになったし、国も各自治体、学校もいくらかは取り組んではいるのだが、ほとんど休む暇もないノンストップ労働の現実は、なんら変わっていない[i]。
次に41%は?
当たる人は少ないのだが、これは、深刻な寝不足、不眠症と疑われる小学校教諭のことだ[ii]。
6分、8分や41%の話を保護者や政治家にすると、かなり驚かれる。忙しいとは聞いていたけど、ここまで余裕がないのか、と。
わたしはこうも呼びかけている。「政治家や産業界の方、文科省は、学校にはもっとこんな教育が必要だとか、教師の資質・能力を向上させないと、ということをよくおっしゃいます。グローバル人材の育成だとか、ICT活用能力を高めろとか、不登校の子にもっと丁寧なケアが必要など。でも、眠くて、いい授業ができますか?トイレに行く暇もない余裕のない日々で、子どもたちの声にじっくり耳を傾けられますか?」
■学校に「余白」がない、5つの問題
多くの小中学校(特別支援学校などでも)で日中の休憩が取れないことが「当たり前」、「デフォルト」な状態になってしまっている。
読者もよかったら、教育委員会事務局に行ったとき、観察してみてほしい。お昼の休憩時間、おにぎり片手にパソコン仕事をしている人がいれば、おそらく教員出身の指導主事だ。行政職(市役所や県庁等の職員)のなかには昼寝をしたり、ぶらぶらしたりしている人もいるのだが、学校の先生は休む習慣がないのだ。
教員の多くは、時間的にも気持ち的にも余裕、「余白」がない状態が続いている。
「余白なんて、わたしには要らない。そんな暇があったら仕事を片付けて少しでも早く帰りたい。」そう言いたくなる教員もいよう。だが、余白のなさはいろいろな側面で問題含みである。少なくとも5点ある(図1)。
図1 学校が多忙で余裕がないことの影響、問題点
第一に、仕事の生産性が落ちている可能性が高い。休息、リフレッシュというのは、脳を回復させる意味がある。自分は休憩なしでもしっかりやれている、と思っている先生であっても、実際は疲労していて、集中力などが落ちている可能性が高い。
第二に、目の前のことをこなすことで手一杯では、抜本的に見なおしたり、改善したりする動きになりにくい。走りながら考えることも大事だが、ときにはちょっと立ち止まって、これまでの「当たり前」や前提を見なおすことが大切だ(「ダブルループ学習」あるいは「批判的リフレクション」などと呼ばれる)。学校は前例踏襲的だ、とよく批判されるが、それは教職員に余白がないことも影響しているのかもしれない。
第三に、一点目、二点目とも一部重なるが、児童生徒への影響である。ゆとりのない状態や寝不足では、ついついイラっとしやすかったり、不用意な言葉がけになってしまったりするときもある。それに、慌ただしく見える先生に、子どもたちはちょっと話しかけよう、相談しよう、と思うだろうか。
第四に、職場のチームワーキング、あるいは互いに支え合い、切磋琢磨する人間関係(同僚性)への影響だ。余裕のない状態では、人を助けようという気になりにくいし、相談しにくくなるのは教職員間にも言える。読者の職員室はどうだろうか。生徒指導事案などは当然共有しているだろうが、隣の席の人、あるいは隣の隣の人が何をやっているか、何に困っているか、把握しているだろうか?
第五に、教職人気への影響だ。学生や社会人あるいは再任用候補等の方に「先生たちは余裕なく走り続けていて、すごいけど、わたしにはできないな、ムリだな」と思わせているのではないだろうか。
■教員人気の低下、だれにとって?
この5点目の人材募集に関連して、いま全国各地の学校では、欠員(教員不足、講師不足)が起きている。教員定数を満たしたところで、前述のとおり忙しいのに、補充がきかない状況では、一層苦しくなる。教頭や教務主任など、本来授業を担当していなかった人が学級担任を兼ねたり、授業に出たりすることも珍しくない。
そこで、教員志望者を増やすこと、ならびに採用試験で不合格となった場合でも講師登録をしてくれる人を増やすことが重要になってくるわけだが、どんな人をターゲットにするべきだろうか。だれに、もっとメッセージを伝える必要(あるいはだれの声を聴く必要)があるだろうか。
こうしたことについて、国や自治体の検討会議などでは、かなり漠然と捉えている向きがあって心配なのだが、一例をあげる。
実は、教員採用試験の受験者のうち、女性の割合は低下を続けている。実数としても、公立小学校と公立中学校の女性受験者は、2022年度には2010年度あるいは2000年度(この年、小学校の倍率が最も高かった)と比べて、小中ともに約1万5千人減っており、男性の減少より大きい(図2、全国の合計値)。22年の女性受験者は00年と比べて、公立小では約半減、公立中では約6割減にもなっている。
図2 教員採用試験の男女別受験者数の推移
つまり、教員人気とひとくちに言っても、とりわけ女性にとっての人気が下がっているのだ。
この背景には企業の採用動向なども影響しているだろうが、女性にとって、企業や他の公務員と比べたときの教職の魅力が下がっている可能性が高い[iii]。ここ約20年のあいだ、企業等では男女の賃金格差は縮小し(いまだ格差はあるものの)、総合職などでの女性活躍も広がってきた。育児休業などの取得も一般的だ。もともと、教職はとりわけ高学歴な女性にとって、差別されることなく、活き活きと能力を発揮して働け、出産・育児の福利厚生も充実した、魅力的な職だったわけだが、企業等との差が縮まってきた。
むしろ、逆転してきたと言えるかもしれない。ここ20年あまり学校の多忙は深刻化してきたので、ワークライフバランスを重視する女性にとって、学校の魅力は下がったのではないか。また、日中休憩も取れない、土日も部活動などで拘束されるということであれば、生理中や妊娠中の女性にとって、働きやすい職場とは言えない。
これら以外の要因もあるだろうが、女性にとって、学校が働きやすい職場、あるいは働き続けたいと思えるような職場でなくなってきていることが影響していると思う。
このコラムに参加のみなさんは、今回述べたようなノンストップ労働の日々、あるいは女性にとっての魅力が下がってきている実情をどう考えるだろうか。ぜひ、ご意見やコメントをお寄せいただきたい。
英語の「school」の語源は余暇や楽しみという意味だそうだ。子どもたちにとっても、教職員にとっても、余暇や休息を、ゆとりをもって楽しめる学校が増えてほしい。
参考書籍
[i] 少し細かい話をすると、所定の休憩時間以外で取った休憩も含めると、小中の教諭とも1日約23分という調査結果もある(文科省「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(速報値)について」)。しかし、おそらく回答者の多くは、トイレに行った時間もカウントしているのではないか。休憩時間とは使用者の指揮命令下、業務から離れる時間を指すが、トイレに行く時間は、通常はすぐに業務に戻るので、休憩時間に含まない(労働時間である)。
[ii] 堀大介ほか「公立小学校教員の不眠症に関する業務時間分析」、『厚生の指標』第68巻第6 号2021年6 月。
[iii] 北條雅一(2023)『少人数学級の経済学::エビデンスに基づく教育政策へのビジョン』慶應義塾大学出版会も参照。


