The Teacher's Learning

リスク忌避な社会のなかで
取材日 : 2025.04.04
教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク 代表理事

妹尾 昌俊 氏

リスク忌避な社会のなかで

一般社団法人ライフ&ワーク代表理事、教育研究家、OCC教育テック大学院大学教授(25年4月開校)。 
全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。 
政府の委員(中教審、部活動ガイドライン検討会議など)や教育委員会のアドバイザーも務めている。 
著書に『学校をアップデートする思考法』、『校長先生、教頭先生、そのお悩み解決できます!』、『先生を、死なせない。』、『学校をおもしろくする思考法』、『教師崩壊』、『変わる学校、変わらない学校』など。5人の子育て中。

過去の連載

第1回 『ノンストップな日々、働き方をみつめなおす理由』

第2回 『働き方改革でカットしてはマズいこと:急がば回れ』

第3回 『再考:働き方改革 「学校でやれることはやり尽くした」は本当か』

第4回 『教育委員会はなにするところ?学校改善の伴走支援者としての教育行政』

第5回 『リスク忌避な社会のなかで』

ここ10年、20年の間に、公園が様変わりしています。

みなさんが小学生くらいの頃はどうだったでしょうか。回転型ジャングルジムや箱ブランコで遊んだことのある方も多いかもしれません。回し(揺らし)過ぎて、やるほうも、やられるほうも、クラクラになったりして。

そんな風景もいまでは珍しくなっています。回転型ジャングルジムも箱ブランコもほとんど見かけません。怪我やトラブルなどのリスクのある遊具を撤去する動きが2000年代頃から広がったためです。私も一番下の子が4歳なので、実感していますが、ボール遊び禁止といった看板を立てる公園も多いですね。

北村匡平『遊びと利他』(集英社新書)※1という本が参考になったのですが、この本では、子どもたちの遊具や遊びの空間の変容を題材に、社会のあり様を問題提起しています。

■効率化、管理化、リスク回避

本書によると、遊具の撤去が典型例ですが、公園をはじめとする子どもたちを取り巻く環境、空間は、効率化、管理化、リスク回避の傾向を強めています。「不安や危険、恐怖の排除」と言い換えてもいい。そのおかげで、事故やトラブルは減ったのでしょう。

ですが、子どもたちが危険や失敗から学ぶことも少なくなっているのではないでしょうか。大人や遊具が想定する遊び方以外を工夫する子も減りました。インクルーシブを謳う公園が、実のところは、特定の人や遊び方を排除する空間づくりをしている、と北村さんは述べます。

本のタイトル『遊びと利他』に現れているように、かつての子どもたちの遊びや遊具は「利他」的なものでした。回転型ジャングルジムでは、回す子は自分が楽しくてやっているわけですが、それは回される側のスリリングなおもしろさにも貢献しています。利己と利他が重なるわけです。ですが、たとえば、ブランコの入口と出口を指定し、「20回までやったら次の人にかわろうね」という公園では、どうでしょう。利他を半ば強要されるわけですが、それが本当の意味で利他あるいは利己になっているでしょうか。

私の個人的な経験を安易に一般化してもいけませんが、公園や子育て支援施設で保護者同士も、よその子の迷惑になることを過度に恐れているように思います。ちょっとしたトラブルでも、すぐに親が謝ります。一部引用しましょう。

モノ一つで管理・回避できる。回数が厳密に定められ、明確な数字があれば、その回数遊んだ人は終了、基本的には揉め事もなく、順番が回り、全員が公平に遊べる。だが、はたしてそれは子供にとって「いいこと」なのだろうか。話しあう機会、いい争う機会がなくなることは、大人にとっては楽かもしれない。けれども、こういう日常的にある面倒なやり取りから私たちは民主主義というものを学び、育てるのではないだろうか。

この本のなかに、親が子どもを「ポケモン」みたいに管理下におかないと、不安で仕方がないようになっている、という指摘があるのですが、私は自分が親として、そういう側面もあるなと、ドキッとしました。

■転ばぬ先の杖

この本では、こうした効率化、管理化、リスク回避が大学教育にも及んでいることを論じています。シラバスを作り、LMS(学習管理システム)で学生の進捗状況を細かくモニタリングして。本文に言及はありませんが、小中学校や高校等でも似た傾向は強いと私は感じます。保護者からクレームになりそうなことは、やらない。教科書の進捗を隣のクラスと合わせ、子どもたちを急かす。子ども同士が揉めたら(揉めそうなら)、教員がいち早く仲介する。最近の小学校等は監督者なしの自習もさせられない、という声も聞きます。

こうした流れの必要性も分からないではないですが、大切なものが失われつつあるのではないでしょうか。子どもの周りの人たちが「転ばぬ先の杖」を出しまくる社会で、社会人になったとたん、「もっと自分なりに考えろ」とか言われても。

寄り道や余白のない生き方を、子どもも、大人もしていてよいのだろうか。そんなことを考えました。

☆ご意見、ご感想など、お気軽に。お待ちしております。

参考書籍

※1 北村匡平(2023)『遊びと利他』集英社新書

株式会社NOLTYプランナーズ