落合 真佐美 先生へインタビュー
貴校が最初にSDGsに着目したきっかけについてお聞かせください。
『夢ナビプログラム』(※)への参加が、SDGsを意識し始めたきっかけでした。
以前は夏休みや春休みの間に、大学が開催するオープンキャンパスへの参加を生徒に推奨していましたが、コロナ禍の影響により、その機会を失い困っていたところでした。
具体的には、ウェブ上で大学の講師による短い授業を生徒自身が選択して受講できるというもので、当校が探していたプログラムと完全に合致しました。
2つ以上受講すること。ただし、そのうちの1つは必ずSDGsをテーマにした授業を選択すること。」と指示を出しました。
昨今はSDGsがマスコミでも取り上げられる機会が多く、ゴールとなる2030年まで10年を切りました。こうした社会の流れを踏まえ、大学側も研究テーマとして取り上げているのであれば、生徒の小論文のテーマにもなり得るだろう。国語を担当教科とする私自身から見ても、「いま、SDGsについて学ぶことは絶好の機会」であると判断しました。そこで高校1年生の秋頃から、生徒はSDGsをテーマにした講座の中から必ず2コマを受講して、ポートフォリオに記録した後、SDGsの目標への取り組みについてのレポートを書くことを高校2年生の春休みまでの間の課題としました。
※高校生の関心ごとに応じた学問を紹介する他社の進路指導ツール
貴校では「探究」をSDGsと教育旅行に絡めていますが、その狙いはどのようなものでしょうか。
ちょうど同時期に「今年の修学旅行をどうするか?」という話題が持ち上がりました。当校では例年、東武トップツアーズ株式会社※のご協力のもと、高等学校で唯一、オックスフォード大学への修学旅行を実施していました。しかし、当時はコロナ禍の影響もあり、渡航が困難な状況の中、代替案についての決断を迫られていた時期でもありました。
そのような最中において、同社からご提案いただいたのが、京都・奈良への『SDGs・教育旅行』でした。京都の大学に通う留学生と市内観光ツアーやディスカッションを行うプログラムが含まれており、これまでのオックスフォード大学での体験と比較しても遜色のない、内容の濃い修学旅行となると確信しました。
元来、京都は産業と教育の結びつきが強く、地域を上げて留学生の支援をしている街であり、現地の留学生も、国費留学で来日している優秀な学生ばかりです。そうした、モチベーションの高い留学生から生徒が受ける刺激という点にも魅力を感じました。おそらく、当校だけでは、こうしたアイデアは思いつかなかったでしょう。しかし前述のとおり、当時は学内でSDGsの学びを推進しておりましたので、こうして思いもよらないかたちで着地点を見出すことができました。
生徒たちからも、「今回の修学旅行に向けて、私たちはSDGsを勉強してきたのだ」と、前向きに理解してもらえたように思います。
事前学習の取り組みがなければ、修学旅行はただの“旅行”で終わってしまいます。逆にいえば、普段は考えてもみないようなことを、外部から取り込み、刺激を受けることによって、生徒自身が気づきを得る“修学”の場であることが不可欠となります。
一方、オックスフォード大学への修学旅行は生徒・保護者からの人気が高かったことに加え、高校から当校に入学してきた生徒の中には、すでに中学生の時点で京都・奈良を訪れている可能性もありましたので、内容・質ともにワンランク上の修学旅行が求められ、強いプレッシャーがあったのも事実です。
コロナ禍において、どのような年間スケジュール(カリキュラム)を立案されたのでしょうか。
まずは、1学期終了前に、SDGs の学び直しを行いました。夏休み期間中は、NOLTYスコラ 探究プログラム『SDGs・教育旅行編』の「興味関心ワーク」を活用した、身の回りの地域でSDGsへの取り組みに関するリサーチを課題とし、2学期が始まった時点で、生徒ごとのリサーチ結果を持ち寄ってディスカッションを行う予定でした。
しかし、コロナの影響で9月は約2~3週間の休校を余儀なくされたことに伴い、当初予定していた授業を行うことができず、スケジュールはどんどん後ろ倒しになってしまいました。その結果、本来は6コマを予定していた授業を4~5コマまで圧縮せざるを得ませんでした。
事前準備としては、 “未完成の状態”で生徒たちは修学旅行へ臨むかたちとなりますが。
意図したわけではありませんが、逆に、上手く行った部分も多くありました。これまで実施していたオックスフォード大学への修学旅行では、生徒が自身の研究テーマについて調べたことを英訳し、現地の学生にプレゼンテーションをします。私たち教員の目からみても、極めてレベルの高い取り組みです。
今回の修学旅行でも、京都の留学生相手にオックスフォード大学と同じ取り組みを行う予定でした。しかし、コロナ禍で準備が大幅に遅れてしまったため、予定していた「プレゼンテーション」から事前に学習をしていたSDGsをテーマとした「ディスカッション」に変更し、あえて、“未完成の状態”で京都へ向かい、現地で情報収集をし、留学生と交流する方向へと舵を切りました。
留学生へのインタビューに際しては、当校の英語教員(ネイティブ含む)の協力を得て、事前に穴埋めするだけで、英語でインタビューができる独自のシートを作成しました。最初は穴埋めする部分を日本語で考えて、後からそれを英語に直すだけでインタビュー原稿が完成する仕組みです。それを現地に持参しました。
修学旅行から戻ってきた後は、ディスカッションを通じて表出した、「生徒たちの考え」と「留学生の考え」の違いや共通点に対して理解を深めました。このように柔軟に対応できたのはSDGsという、ある種の“世界共通の言語”があったおかげだと考えています。