COLUMN

2026.07.28

デジタル時代の関係構築 - 情報武装した顧客の「信頼」を勝ち取るリアル接点の作り方│シリーズ 第5回

『営業組織の再設計 - 現場と経営をつなぐ新たな視点』シリーズ 第5回

本コラムは、営業現場と経営層の認識ギャップを明らかにし、両者の視点を統合した効果的な営業戦略の構築方法を提示する連載シリーズの一部です。今回は、全国の営業職300名と営業部門管理職・経営者250名を対象に実施した「デジタル時代における営業戦略と顧客信頼構築について」の最新アンケート※(2025年9月実施)の結果から、情報武装した顧客への対応と、営業現場におけるリアル接点の活用方法について考察します。特に、顧客が自ら情報収集を進める現在のB2B購買プロセスにおいて、営業担当者に求められる役割がどのように変化しているのかを整理します。

※アンケート調査方法にはアイブリッジ株式会社のFreeasy(https://freeasy24.research-plus.net/)を使用しています。
調査の際、回答は匿名で行われ、会社名は非公開で実施されています。

前回は、経営層と営業現場で異なる「差別化」への危機感を取り上げました。そこで見えてきたのは、経営層が市場における競合優位性を重視する一方、営業現場では自社の強みを顧客に伝えることに苦戦しているという事実です。
今回注目するのは、その背景にある顧客側の変化です。顧客は商談前に自ら情報収集を行い、複数社を比較し、一定の判断基準を持ったうえで営業担当者と接点を持つようになっています。
つまり、営業担当者はもはや「最初の情報提供者」ではありません。顧客が集めた情報を整理し、自社にとっての意味へと変換する「解釈者・ナビゲーター」になることが求められています。

目次

顧客は営業担当者に会う前に何を知っているのか

従来の営業では、営業担当者が顧客に商品情報や業界知識を提供し、検討の方向性を示すことが一般的でした。
しかし現在、顧客は営業担当者に会う前から、さまざまな情報を集めています。

・自社の課題に関する情報
・解決策やサービスの種類
・複数社の製品・サービス比較
・導入事例や口コミ
・料金や導入期間
・導入後の運用負荷
・競合企業の強みと弱み


このような顧客は、単に情報を持っているだけではありません。自社なりの仮説や判断基準を持っています。
こうした情報武装した顧客を、インフォームドバイヤーと呼びます。
インフォームドバイヤー対応で重要なのは、顧客が何も知らない前提で説明しないことです。すでに調べている顧客に対して、一般的な会社紹介や機能説明を続ければ、営業担当者は「知っている情報を繰り返す人」と見なされてしまいます。
顧客が求めているのは、情報の追加ではなく、情報の整理と解釈です。営業担当者は、顧客の情報収集の進み具合と検討状況を把握し、次に必要な判断材料を提示する必要があります。

データで見る営業環境の変化と情報収集の実態

今回のQ1の「以前と比べて最も大きく変化していると感じることは何ですか?」という問いでは、営業職の32%、経営者・役員の31%が「顧客とのコミュニケーション方法」と回答しました。
最も高い割合となった項目ですが、次に注目すべきなのが「顧客の情報収集の仕方」です。
この項目を選んだ割合は、営業職16%、経営者・役員11%でした。経営層よりも営業現場の方が、顧客の情報収集方法の変化を強く実感していることが分かります。
営業担当者は、日々の商談を通じて、顧客が事前に情報を調べ、比較し、質問を準備している状況を直接感じています。
一方、「お客様の購買意思決定プロセス」を変化として挙げた割合は、営業職9%、経営者・役員14%となりました。
この結果から、営業現場は顧客の情報収集方法の変化を強く感じ、経営層はその先にある購買意思決定プロセスの変化を強く意識していると考えられます。
これは、B2B購買プロセスの変化を、営業現場と経営層が異なる視点から捉えている状態です。
営業現場は「顧客が商談前に何を調べているか」を見ています。経営層は「情報を得た顧客が、どのように社内で意思決定するか」を見ています。
ここに、情報収集をめぐる認識の違いがあります。

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インフォームドバイヤー対応で起きている営業現場の変化

顧客が事前に情報を集めるようになると、営業現場の役割は大きく変わります。
以前であれば、初回商談の中心は次のような内容でした。

・会社概要の説明
・製品やサービスの紹介
・導入実績の提示
・一般的な課題のヒアリング
・自社の強みの説明

しかし現在、顧客が知りたいのは、こうした一般情報だけではありません。

・自社の状況に本当に合うのか
・他社との違いは、自社にとって意味があるのか
・導入後に現場が運用できるのか
・社内の意思決定者をどう説得すればよいのか
・検討を進めるうえで、見落としている論点はないか


インフォームドバイヤー対応では、顧客が集めた情報を前提に、判断を支援しなければなりません。
顧客の情報収集が進んだ結果、営業の価値は「知識量」から「意味づけ」へ移っています。

なぜ情報を持つ顧客ほど信頼構築が難しいのか

情報を持つ顧客は、営業担当者の説明を慎重に評価します。自社の主張だけでなく、競合企業の説明や第三者の情報と照らし合わせるからです。
今回のQ3では、信頼関係構築の障壁として、営業職の23%、経営者・役員の20%が「自社の強みや差別化要素の伝達困難」を挙げました。
また、「顧客の情報過多による関心獲得の難しさ」は営業職15%、経営者・役員14%となっています。
この2つの結果を合わせると、現在の営業現場では次のような問題が起きていると考えられます。

・顧客は多くの情報を持っている
・競合各社の説明が似ている
・自社の強みを説明しても違いが伝わりにくい
・顧客の関心を引く前に、比較表の中へ埋もれてしまう
・説明量を増やすほど、かえって情報過多になる


ここで重要なのは、情報をさらに追加すれば解決するわけではないということです。
顧客に必要なのは、情報の量ではなく、自社の判断に必要な情報を見分けるための視点です。

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デジタル時代におけるリアル接点の価値

デジタルで比較検討を進めてきた顧客に対して、対面や紙のツールは一見すると非効率に感じられるかもしれません。
しかし、情報がデジタル上にあふれているからこそ、リアル接点には価値があります。
対面の場で顧客の発言をその場で書き出し、課題や判断基準を可視化すると、顧客は「自分たちの話を整理してくれている」と実感できます。
たとえば、ホワイトボードや紙に次の4項目を書き出します。

・現在の課題
・目指したい状態
・導入を阻む要因
・次に確認すべきこと


この作業は、単なるメモではありません。顧客の頭の中にある情報を、意思決定できる形に変換する作業です。
リアル接点の価値は、紙そのものにあるのではありません。営業担当者と顧客が同じ情報を見ながら考え、解釈を共有できることにあります。
デジタルで情報収集を終えた顧客だからこそ、対面の場では「情報を増やす営業」ではなく、「情報を整理する営業」が求められます。

B2B購買プロセスを支援する最初の1分実践アプローチ

1. 会社説明ではなく、検討状況から始める
商談の冒頭で、いきなり会社概要や製品説明を始めるのは避けるべきです。
まず、次のように問いかけます。
> 「すでに複数社を比較されていると思います。今回の検討で、最も判断が難しい点はどこでしょうか」
この質問によって、営業担当者は「説明する人」ではなく、「検討を整理する人」として商談に入れます。

2. 顧客の事前情報を3つに分類する
商談前に、顧客に関する情報を次の3つに整理します。

・顧客が知っていること
・顧客が誤解している可能性があること
・顧客がまだ気づいていないこと


営業 情報収集の目的は、顧客が知っている情報を増やすことではありません。判断に必要な見落としを発見することです。

3. 比較表を「判断表」に変える
機能や価格を並べるだけの比較表は、各社の類似性を強調してしまいます。
そこで、顧客の判断軸を中心に整理します。

・導入スピード
・現場の運用負荷
・社内展開のしやすさ
・導入後の支援体制
・将来的な拡張性
・失敗時のリスク


自社の強みは、顧客の判断軸と結びついて初めて差別化になります。

4. 紙に書いて、顧客の認識を可視化する
顧客の発言をそのまま書き出し、「この理解で合っていますか」と確認します。
この方法には、次の効果があります。

・認識違いを早期に発見できる
・顧客の発言が整理される
・商談後の社内共有に使いやすくなる
・営業担当者への信頼が生まれる


特に複数の関係者が参加する商談では、目に見える形で論点を共有することが有効です。

5. 商談後に「社内説明用の一枚」を渡す
顧客の購買意思決定は、商談参加者だけで完結するとは限りません。
上司、経営層、情報システム部門、現場責任者、購買部門など、複数の関係者が関与します。
そのため、B2B購買プロセスでは、商談後の社内説明や合意形成も重要な段階です。
商談後には、次の内容を一枚にまとめます。

・検討の背景
・解決したい課題
・選定時の判断基準
・導入によって期待できる変化
・想定される懸念
・次に確認する事項


これは営業資料ではなく、顧客の社内意思決定を支援するツールです。

情報提供型営業から解釈・伴走型営業へ

今回の調査から見えてきたのは、顧客が情報を持つようになったことで、営業の価値がなくなったのではなく、その役割が変わったということです。
インフォームドバイヤー対応では、顧客が事前に行った情報収集の内容を踏まえ、顧客がB2B購買プロセスのどの段階にいるのかを把握する必要があります。
顧客が事前に情報を集める現在、営業担当者が一般的な説明を繰り返しても、意思決定は前に進みません。
必要なのは、顧客が集めた情報を整理し、自社の状況に照らして判断できるよう支援することです。
つまり、営業は「情報提供者」から「解釈者・伴走者」へ変わる必要があります。
そのためには、顧客の判断基準を把握し、比較検討の論点を整理し、社内説明に使える材料を提供することが重要です。
こうした支援を営業担当者個人の力量に任せるのではなく、営業資料や商談プロセスに組み込むことが、営業組織に求められます。
営業組織の競争力は、どれだけ多くの情報を持っているかで決まりません。
顧客の情報をどれだけ適切に整理し、意思決定につなげられるかで決まります。
情報提供型営業から、解釈・伴走型営業へ。
この転換を実現できるかどうかが、情報武装した顧客から選ばれ続ける営業組織になれるかを分けるのです。

次回:
『営業組織の再設計 - 現場と経営をつなぐ新たな視点』シリーズ第6回では、業界によって異なる営業戦略と顧客接点のあり方をテーマに取り上げます。
同じ営業であっても、業界が変われば、顧客との関係構築、商談期間、意思決定の進め方、営業担当者に求められる役割は大きく異なります。
顧客との信頼関係を重視する営業、専門知識や提案力が求められる営業、導入後の支援や継続的な関係構築が重要となる営業など、業界ごとの営業スタイルや顧客接点の違いを対比しながら、自社の営業組織に必要な戦略や営業担当者の役割を考えていきます。


株式会社NOLTYプランナーズ