
『営業組織の再設計 - 現場と経営をつなぐ新たな視点』シリーズ 第2回
本コラムは、営業現場と経営層の認識ギャップを明らかにし、両者の視点を統合した効果的な営業戦略の構築方法を提示する連載シリーズの一部です。今回は、全国の営業職300名と営業部門管理職・経営者250名を対象に実施した「デジタル時代における営業戦略と顧客信頼構築について」の最新アンケート※(2025年9月実施)の結果から、顧客接点戦略における認識の違いについて考察します。
前回のコラムはこちら「デジタル化で見えなくなる対面営業の価値 - 営業現場と経営層の認識ギャップを埋める」
※アンケート調査方法にはアイブリッジ株式会社のFreeasy(https://freeasy24.research-plus.net/)を使用しています。
調査の際、回答は匿名で行われ、会社名は非公開で実施されています。
調査のQ2(現在直面している最重要の営業課題)では、「営業サイクルの長期化」を最重要の営業課題に挙げた営業職は18%に対し、経営者・役員は10%に留まりました。現場の方が8%高く、本設問の中でも認識差が2番目に大きい項目です。
つまり、経営側が気づかないところで、現場は長期化する進め方や管理に対応しきれず、商談の長期化・停滞が常態化して疲弊するリスクが高まっています。
このコラムでは、データで実態を整理したうえで、長期化の原因を「顧客の意思決定プロセス」と「情報過多」から解き明かし、次の打ち手を具体化します。
目次
認識のギャップが引き起こす「見えない損失」
この8%の差は、一見するとわずかな違いに見えるかもしれません。
ですが本質は「サイクルが長期化している」という変化を、現場は前提として扱い、経営は前提にし切れていない点にあります。
前提が揃わないままでは、議論はすれ違います。現場は案件の停滞理由や顧客事情を語り、経営は達成手段や行動量を求める。すると「何を変えるべきか」が定まらず、打ち手が場当たり的になっていきます。
この状態が続くと、現場は“長期化した商談”に合わせたプロセス設計を求め続け、経営は従来型の設計で押し切ろうとする構図になりがちです。
この8%というわずかな差でも、見過ごしていると、企業の競争力低下に直結する営業課題となります。
では具体的に、現場と経営はどの課題を重く見ているのでしょうか。Q2の回答を比較します。
初回接触から成約までの「サイクル長期化」をめぐる現場と経営の温度差
Q2の結果を見ると、営業現場では多くの人が「明確な課題」を抱えていることがわかります。営業職では「顧客との信頼関係構築の難しさ」(19%)、「営業サイクルの長期化」(18%)、「競合との差別化」(16%)と、いずれも“最も重要な課題”として一定の票を集めており、現場の課題感がはっきり顕在化していると言えます。
一方、経営者・役員の回答は「対面営業とデジタル営業の使い分け」(22%)が最多で、「顧客との信頼関係構築の難しさ」(13%)や「営業サイクルの長期化」(10%)は相対的に低い結果となっており、現場が重視する上位課題と、経営層が重視するテーマにはギャップが見られます。

このギャップを踏まえてQ4(平均的な営業サイクル(初回接触から成約まで)はどう変化したか)を見ると、営業職の44%が「長くなった」(12%)「やや長くなった」(32%)と回答しており、営業サイクルの長期化は現場の体感としても重い課題になっていることがわかります。
このように、営業職にとって「営業サイクルの長期化」は、顧客との信頼関係構築の難しさと並ぶ、最も喫緊の課題の一つである一方、経営層は「対面とデジタルの使い分け」をより重要視しており、この視点の違いが、ズレを生みやすい要因の一つと言えそうです。

顧客の「意思決定プロセス」変化と情報過多が引き起こす長期化
なぜ、これほどまでに営業サイクルは長期化しているのでしょうか?その真実を探る鍵は、現代の顧客の行動変容と、その意思決定プロセスに隠されています。
かつての営業は、情報を持つ売り手が主導権を握り、顧客は営業担当者から多くの知識を得ていました。しかし今や、インターネットを通じて、顧客は営業担当者に会う前から自ら多くの情報を収集し、比較検討を進めることができます。
・情報過多と自己解決志向
顧客は、Webサイト、ブログ、SNS、レビューサイトなど、あらゆる情報源から製品・サービスに関する情報を入手し、自社の課題解決策を模索しています。これにより、営業担当者との初期接触の段階で既に一定の知識や仮説を持っているため、営業活動はより高度な「課題解決の伴走者」としての役割が求められるようになりました。
・多角的な社内合意
特にBtoB領域では、購買に関わるステークホルダーが増加し、情報システム部門、調達部門、利用部門など、複数の部署や役職者の合意形成が不可欠です。各部門のニーズや懸念をクリアにするためのプロセスが複雑化し、結果として意思決定に時間がかかります。
・リスク回避志向の高まり
不確実性の高い現代において、企業はより慎重に投資判断を下す傾向にあります。導入後のリスクや効果検証に対する要求も高まり、意思決定までの障壁が増加しています。
これらの変化は、営業担当者が「売る」だけでなく、「顧客が適切に意思決定できるよう支援する」役割を強く求められていることを意味します。そのため、単純に商談回数を増やすだけでは解決せず、顧客の購買フェーズごとに適切な情報提供とサポートを行う必要があり、これが営業サイクルの長期化に直結しているのです。
長期化を前提とした新たな営業プロセス設計
この長期化をネガティブな要素として捉えるのではなく、「顧客との関係性を深める機会」と捉え、営業プロセス全体を見直すことが重要です。現場の取り組みとしては、例えば次のような方法があります。
1. 「顧客視点」でのジャーニーマップ再構築
自社主導の営業プロセスではなく、顧客が「認知→情報収集→比較検討→意思決定→導入」に至るまでの心理と行動を詳細に把握し、各フェーズでどんな情報が必要か、誰と話したいか、どんな疑問を持つかを明確にします。これは、以前のコラムで触れた「受注プロセスを可視化する顧客ジャーニーマップ」の考え方そのものです。
2. デジタルと対面の最適ミックス戦略
顧客が「自力で情報収集できるフェーズ」ではWebサイト、ブログ、ウェビナーなどのデジタルコンテンツで支援し、「個別具体的な課題解決や深い信頼関係構築が求められるフェーズ」で対面やオンライン会議を活用するなど、各接点の役割を最適化します。
3. 営業とマーケティングの連携強化
顧客の情報収集フェーズをマーケティング部門が担い、質の高いリードを育成。営業は、より購買意欲が高まった段階で介入し、深い商談に集中できる体制を構築します。
4. 「顧客の社内営業」支援
顧客が自社内で合意形成を進める際に必要な資料提供、プレゼンテーション支援、リスクヘッジ策の提案など、顧客の「社内営業」を積極的にサポートする体制を整えます。
5. データに基づいたサイクルマネジメント
SFA(営業支援システム)を活用し、各商談フェーズの滞留期間、ボトルネックとなっている要因、成約率の高いプロセスなどをデータで分析。長期化している原因を特定し、改善策を継続的に実施します。
現場の真実を受け入れ、未来の営業を設計する
営業サイクルの長期化は、現場ではすでに「当たり前の前提」になりつつあります。実際に最重要課題として挙げたのは営業職18%に対し、経営者・役員は10%で、現場と経営で温度差が残っています。このズレを放置すると、活動量の上積みや従来KPIの押し付けで商談の停滞が増え、予測精度の低下や疲弊につながります。
必要なのは単純な「短縮」ではなく、顧客の意思決定プロセスの複雑化と情報過多を前提に、合意形成を前へ進める営業プロセスへ再設計することです。案件タイプ別に滞留ポイントを可視化し、社内合意を支援する情報提供と接点設計を整え、データに基づいて継続的に改善する運用文化をつくる——それが、長期化時代に成果を安定させる営業組織の条件です。
次回:
『営業組織の再設計 - 現場と経営をつなぐ新たな視点』シリーズ第3回では、『顧客信頼構築の新常識 - デジタル時代に営業が直面する最大の壁』をテーマに、営業職19%、経営者・役員18%が「信頼関係構築」を最大の課題と捉える背景を読み解きます。オンライン中心のやり取りが増える一方で、対面機会の減少や情報の非対称性の薄れが、信頼形成の難易度をどう押し上げているのかを整理。さらにデータを手がかりに、信頼構築に効く具体アプローチ、デジタルとリアルを組み合わせた実践フレームワーク、そして明日から使える5つのコミュニケーション技術まで落とし込みます。


