COLUMN

2025.12.12

デジタル化で見えなくなる対面営業の価値 - 営業現場と経営層の認識ギャップを埋める

『営業組織の再設計 - 現場と経営をつなぐ新たな視点』シリーズ 第1回

本コラムは、営業現場と経営層の認識ギャップを明らかにし、両者の視点を統合した効果的な営業戦略の構築方法を提示する連載シリーズの一部です。今回は、全国の営業職300名と営業部門管理職・経営者250名を対象に実施した「デジタル時代における営業戦略と顧客信頼構築について」の最新アンケート※(2025年9月実施)の結果から、顧客接点戦略における認識の違いについて考察します。

※アンケート調査方法にはアイブリッジ株式会社のFreeasy(https://freeasy24.research-plus.net/)を使用しています。
調査の際、回答は匿名で行われ、会社名は非公開で実施されています。

「デジタル化が進んでいる」—多くの経営者がそう考えています。しかし、実際の顧客接点の実態はどうなのでしょうか? 今回の調査では、顧客接点のデジタル・対面比率について経営層と営業現場で興味深い認識の違いが明らかになりました。

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調査データ「顧客との接点の比率」全体を見ると、オンライン接点の比率については両者の認識がほぼ一致している(「オンラインでの接点が多い」「オンラインでの接点がやや多い」「オンラインと対面が同程度」の回答)にもかかわらず、対面接点の評価については唯一差が生じています。
特に「対面での接点が多い」と回答した割合は、営業職が25%であるのに対し、経営層では、20%にとどまります。さらに「対面での接点がやや多い」についても、営業職は15%、経営層は20%と数字が逆転しています。
デジタル時代の営業変革を成功させるには、まずこの差を正しく理解し、埋めていく必要があります。

本コラムでは、その「経営層と現場の認識ギャップ」の実態と、効果的な顧客接点戦略の構築方法について解説します。

目次

デジタル化の現状認識における経営層と営業現場のギャップ

調査データ「営業変化に対する認識の違い」によれば、営業環境の変化について「顧客とのコミュニケーション方法」が最も大きく変化していると感じている点では、営業職(32%)と経営層(31%)で認識が一致しています。しかし、より詳細に見ると、「顧客の情報収集の仕方」の変化を感じる割合は、営業職が16%であるのに対し、経営層は11%と差があります。これは、営業現場が顧客の情報収集行動の変化をより敏感に感じ取っている証拠です。

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一方で「競合との差別化」については、経営層が14%と重視しているのに対し、営業職は8%と6%の差があります。同様に「お客様の購買意思決定プロセス」と「営業活動のデジタル化」についても、経営層の方が営業職よりも変化を強く感じています。
興味深いのは、「特に変化を感じない」と回答した割合が、営業職では18%に達するのに対し、経営層では13%にとどまる点です。このデータからは、経営層の方が営業環境の変化をより強く意識している一方で、現場レベルではまだ変化の実感が伴っていない状況が読み取れます。

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顧客接点のデジタルシフトの実態

冒頭でも触れた顧客接点の実態について、さらに詳しく見ていきましょう。
顧客との接点について経営層と現場の間には認識の違いが存在します。「対面での接点が多い」と回答した割合は、営業職25%に対して経営層20%と5%の差があり、「対面での接点がやや多い」についても経営層20%に対し営業職15%と数字に開きがあります。
この結果から、営業現場は経営層が想定するよりも「対面接点の重要性」を強く認識していることが明らかです。営業現場は日々の顧客対応の中で、対面でのコミュニケーションの価値を実感しているのでしょう。
一方、「オンラインでの接点が多い」「オンラインでの接点がやや多い」を合わせると、営業職では37%、経営層でも36%が顧客接点のデジタル化を実感しています。「オンラインと対面が同程度」という回答も約4分の1を占め、ハイブリッド型の顧客接点が一般化していることを裏付けています。

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認識ギャップが営業変革を阻む要因に

なぜこのような認識ギャップが生じるのでしょうか。営業現場は顧客との直接的な関係構築において対面接点の価値を高く評価している一方で、経営層はデジタルシフトのトレンドや効率化の観点から、対面接点の必要性を若干低めに見積もっている可能性があります。
このギャップは、営業DXを推進する上で大きな障壁となります。経営層がデジタル化を過度に推進しようとすれば、現場は「顧客との関係構築に不可欠な対面接点が失われる」と懸念し、抵抗感を示すでしょう。また、経営層が現場の対面重視の実態を十分に理解せずに戦略を立てると、現実との乖離が生じ、効果的な変革が困難になります。

ギャップを埋めるための3つのアプローチ

1. SFA(営業支援システム)などを活用した顧客接点の可視化
現状の課題: 対面接点の価値について経営層と現場で認識のズレがあり、感覚的な議論になりがちです。

解決アプローチ: 顧客との対面・オンライン接点について営業支援システムを活用し、どの接点が成約率向上に貢献しているかをデータ化します。「感覚」ではなく「事実」に基づく議論を可能にします。

SFAの活用では、単に商談記録を残すだけでなく、接触タイプ(対面/オンライン)、商談や打ち合わせの内容、顧客の反応などを細かく入力する習慣づけが重要です。こうした詳細データを分析することで、「どの段階での対面接点が最も効果的か」「オンライン商談と対面商談の最適な組み合わせパターン」などが明らかにしていきます。例えば、初期段階はオンラインでも問題ないが、提案段階では対面の方が成約率が向上するといった具体的な傾向を把握できるようになります。

2. 顧客ジャーニーマップの作成
現状の課題: 顧客の意思決定プロセスが見える化されておらず、どのタイミングでどのような接点が最も効果的かの判断基準がありません。

解決アプローチ: 受注に向けてどのような手法のタッチポイントが必要かを整理するためのジャーニーマップを作成し、各フェーズでの最適な接点方法を設計します。

ジャーニーマップ作成では、顧客が最初に自社を認知してから契約に至るまでの全プロセスを可視化します。特に重視すべきは、顧客の心理状態や意思決定に影響する重要な「感情の機微」を捉える点です。例えば、「提案書を送付した後、顧客は具体的なイメージが湧かずに不安を感じている」という仮説に基づき、その段階での対面説明の必要性を明確にします。このプロセスを通じて、なぜある段階で対面接点が重要なのか、オンラインで代替可能な接点はどこかを、データに基づいて判断できるようになります。

3. PDCAによる勝ちパターンの構築と最適化
現状の課題: 効率化と顧客接点の質向上を両立させる明確な方法論が確立されていません。

解決アプローチ: データ化・整理されたジャーニーマップをもとにPDCAを回し、自社独自の「勝ちパターン」を見出すことで、効率と効果を両立させます。

勝ちパターンの構築では、SFA(営業支援システム)で蓄積したデータと顧客ジャーニーマップを組み合わせ、「どの顧客セグメントに」「どのタイミングで」「どのような接点を持つと」最も効果的かを分析します。例えば、新規顧客と既存顧客で最適な接点パターンは異なるのか、業種別で見た場合の違いはあるのかなど、多角的な分析が重要です。これらの分析結果をもとに仮説を立て、実践し、結果を検証するPDCAサイクルを継続的に回すことで、自社固有の勝ちパターンを確立していきます。このプロセスを通じて、経営層の効率化方針と現場の顧客接点重視の考え方を両立させる具体的な方法論を見出すことができます。

対面価値の再評価とハイブリッド時代の営業変革に向けて

デジタル時代の顧客接点戦略を成功させるカギは、経営層と現場の認識ギャップを埋めることにあります。データが示すように、営業現場は経営層が考える以上に対面接点の価値を重視しています。この現場の実感を無視したデジタル化は、顧客関係の質を損なうリスクがあります。
効果的な顧客接点戦略は、単純に「デジタル化を推進する」ということではなく、対面接点の価値を適切に評価しながら、デジタルでそれを補完・強化するハイブリッドアプローチを構築することです。経営層と現場が共通の目標と認識を持ち、データに基づいて継続的に改善していく文化を醸成することが、これからの営業組織に求められる重要な変革です。

次回:
『営業組織の再設計 - 現場と経営をつなぐ新たな視点』シリーズ第2回では、『営業サイクル長期化の真実 - 経営者が見落としがちな現場の課題』をテーマに、44%の営業職が実感する営業サイクルの長期化について分析します。経営者との間に生じている8%もの認識差の背景や、「長くなった」と「変わらない」に二極化する現場の実態、そして長期化を前提とした新たな営業プロセス設計の方法について解説します。営業効率化を目指す企業必見の内容です。

株式会社NOLTYプランナーズ