PRINCIPAL INTERVIEW

自己肯定感を高め、なりたい自分になる!賑やかで楽しい学校づくり
取材日 : 2025.11.14
  • 中学校
  • 高等学校
駒込学園 駒込中学校・高等学校

校長:河合 孝允 先生

自己肯定感を高め、なりたい自分になる!賑やかで楽しい学校づくり

2025年に創立100周年を迎える駒込中学校・高等学校。伝統校として受け継がれる教育理念を基盤に、「駒込ミレニアム改革」など新たな時代を見据えた学校改革も積極的に行っています。今回は河合校長に本校における歴史と教育実践についてお伺いしました。

貴校は今年で創立100周年を迎えます。学校の歴史について教えてください。

本校の源流は、1682年、上野の寛永寺境内に開設された「勧学講院」までさかのぼります。仏教に限らず道教や四書五経など幅広い古典を、一流の学者が無料で市民に教える、開かれた学びの場を提供してきました。

大正末以降は大学部が分離し、本校も独立した存在として発展、その後、戦災で校舎の多くを失いながらも、戦後の学制改革で中高一貫の体制を整備。男子校から女子部設立を経て1966年に共学化しました。その際、「エリート教育ではなく、子どもたちに平等な教育を」という方針に舵を切り、「来る者を受け入れる学校」へと理念を転換しました。

伝統を大切にしつつ、誰もが安心して学び、成長できる、賑やかで楽しい学び舎であり続けることが、駒込中学校・高等学校の現在まで続く学校としての在り方の根幹です。

教育理念・教育方針について教えてください

仏教系の学校として、「己を忘れて他を利するは、慈悲の極みなり」という教えを教育の核に据えています。悲しみと慈しみをもって人に寄り添う心を養うために、人間の「四苦八苦」を理解し、この苦しみをどうすれば解決できるのかを考えます。苦しみの原因を見極めて、それを断ち、正しい八つの道「八正道」を歩むという仏教の教えを、日々の指導に落とし込んでいます。

また、本校は下町に位置しているため、浅草をはじめ芸能文化との縁が深く、多様な才能を持つ生徒が自然体で学べる環境を整えてきました。偏差値だけで生徒を選抜するのではなく、多様な入試形態で、個性あふれる生徒を受け入れています。二科目入試から得意一科目入試、適性検査型入試、自己表現入試など、得意なもので受験できる仕組みを設け、個性と可能性を正当に評価しています。

例えば、自己表現入試ではどのようなことを行うのでしょうか?

自己表現入試では、1つのテーマを与え、図書室で90分、資料やインターネットを自由に使って考え抜いてもらいます。お茶を飲みながらリラックスして取り組める環境で行いますが、テーマは「倒産寸前の会社をどう再建するか」など大学入試級の重さです。

ある特待生で入学した生徒は、このお題に対して文字を一切使わず、アラジンの魔法のランプの絵で「願いが叶う仕組み」を提示しました。これがまさに思考力であり、こうした独創的な思考を評価できる教員集団がいるのも本校の強みです。

また、仏教校として、駆け込み寺のように、心身の不調や不適応に悩む生徒も受け入れ、安心して立ち直れる環境を用意しています。実際、校門をくぐった瞬間に「この学校に決めた」と直感する子どもが多いのは、偏差値で規定せず、可能性を見抜いて育てるという姿勢が伝わるからだと考えています。

学校の勝負は、子どもの価値観を健全に転換し、自己肯定感をどれだけ育めるかにあります。「僕は僕、私は私」でいい、他者とは異なるオリジナルワンとしての自分を、心の基軸に据えられるかが鍵です。これが仏教教育の根本であり、本校の実践です。校長として大仰なことを語る必要はありません。生徒とともに遊び、学び、暮らし、「賑やかで楽しい学校」をつくることが最良の道だと考えています。

「賑やかで楽しい学校」を体現しているエピソードを教えてください。

毎年10月31日のハロウィーンでは、生徒たちが自主的にハロウィーンパーティーを企画しています。ある年、仮装大会の優勝チームが校長室に来て、「トリック・オア・トリート」と言うわけです。「じゃあお菓子をあげるよ」と優勝チームに渡しました。そうしたら、もらえなかったチームが「いいな、いいな」と言ってくる。だったら「君たちにもあげる」と言って、結局、全生徒にお菓子を配るようになりました。今では朝8時にはもう100名くらいがお菓子をもらいに並び、最終的には1,700人近い生徒がお菓子をもらいに来ます。用務員さんと事務の職員総出で配っても大変なので、PTAの保護者の方にも協力してもらってお菓子を配っています。

「己を忘れて他を利するは、慈悲の極みなり」を校長が実践しなかったら意味がないのです。仏教でいう「他を利する」というのは、私たちにとっては生徒を利することです。生徒をどのように利する教育ができるのか、どのような学校づくりができるのか、そこに尽きます。だから私自身がまず実践し、その考えを教頭や学校の執行部、主任の先生たちとも共有して、皆さん同じ気持ちで取り組んでくれています。

ICT教育やグローバル教育、STEAM教育など、独自のプログラムを推進されています。具体的な取り組みについて教えてください。

本校は教育特区校として、中高一貫の独自教育を展開しています。例えば、文科省の指導要領の枠外で海外での学習成果を単位認定できる仕組みもあり、オーストラリアで現地の歴史を学べば、そのまま卒業単位として認めています。こうした学びを体系化したのが「国際教養コース」で、第二外国語にフランス語を置き、授業はオールイングリッシュ、高校の入学資格は英検準2級を基準とし、準1級や1級を持つ生徒も多数在籍しています。

中学では小学生のうちに英検準2級、2級を取得した生徒が30名ほど入学するので、ABCから始める一斉授業は成立しません。必然的にICTを活用した個別最適の学習に舵を切っています。

また理数・工学の分野ではSTEAM教育を中核に据えています。埼玉大学STEM教育研究センターと提携し、中学1年生から班ごとに自走ロボットを製作し、スマホでプログラミングして走らせたり、音楽に合わせて踊らせたりします。優秀な生徒は日本代表としてニューヨークのロボットコンテストに参加しています。

地域課題に挑む学びも重視しています。少子化の影響で東北などでは耕作放棄地が増え、里山の手入れが行き届かず、クマの人里への出没が問題化しています。そこで本校の生徒はドローンやロボティクスを活用した新しい農業の仕組みを提案し、播種から収穫までを担う一台のロボットを自作して福島で発表、優勝しました。

若いほど吸収が早く、発想が豊かですから、先生が後から追いかけるほどの勢いで学びが進んでいます。

こうした学びを具現化するためにはどのような学校運営や授業設計の体制が必要でしょうか

私たちが目指すのは、教科書を教えるのではなく、教科書“で”教える学校です。教科書を足場に、現実社会の課題に接続し、情報を自ら選び取り、批判的に読み解き、技術で解を形にする。そうした実践を通じて、生徒は世界に通用する実装力と判断力を身につけていきます。

基礎知識は縦軸として身につけ、その上で、横軸として思考力・判断力・表現力、特に表現力を育てます。自分の言葉で考え、選び、伝える力がなければ、知識は活きません。教室での対話や発表、文章化のプロセスを通して、知識を使いこなす力を磨いていきます。

さらにZ軸として心の教育を重ねます。心が整っていなければ、どれだけ知識があっても社会の役には立ちません。誰のために、何のために、その知識を使うのか、この問いに向き合うことで、学びに目的と責任が生まれます。

早い段階から自己肯定感を育み、目標を定めて志を立てて学ぶことができれば、できない子はいないと考えています。頭の良し悪しではなく、性格や環境が学び方を左右します。

大切なのは、子どもが安心して自分らしくいられる場を用意することです。前述のハロウィーンの例のように、お菓子を配るくらいの素朴な楽しさを大事にする。そんな小さな工夫の積み重ねが、子どもたちの自己肯定感を支え、学びを前に進めるエネルギーになります。

今後の展望を教えてください。

少子化が進む時代、均質な学校づくりでは個性は育ちません。民間の手法を積極的に取り入れ、温故知新、つまり「古きを訪ねる」だけでなく、「新しきを知る」姿勢が不可欠です。特にAI技術については、教育にどう実装するかを具体的に考え、先んじて取り入れていくことが重要だと考えています。そうしなければ、学校は淘汰されてしまうでしょう。

また日本の教育は、科学教育の捉え方から見直すべきです。サイエンスは本来、理科だけではなく、数学と結びついて初めてサイエンスになります。ですが日本では理科と数学が分断され、さらに文系・理系に分けられてしまっています。ようやく大学側が変わり始め、文系か理系か、という枠組みを超える力が必要だという認識に転換し始めています。背景には、経済産業省が「デジタル人材を育てよ」と大学に要請している事実があります。大学は文理融合のコースを次々に立ち上げ、高大接続も加速しています。高校段階から大学の科目を履修し、若くして研究者・教員になる道も整ってきました。

問題は、高校や中学がこの変化に追いつけるかどうかです。10年、20年先を見据え、AIに「使われる側」ではなく「使いこなす側」へと導けるかが分水嶺です。教員もAIを活用して、40人いれば40通りの学びを1時間の中で設計できる体制が必要です。本校では、プロジェクターや電子黒板、1人1台タブレット端末を整備し、対応しています。

近い将来、多くの仕事がAIに置き換わるでしょう。だからこそ、偏差値や難関校合格だけを教育ゴールにするのではなく、「なりたい自分になれる教育」を掲げることが大切なのです。大学は手段の一つであり、なりたい自分に必要なら行けばいい、という位置づけです。これからの時代は「どこの大学を出たか」ではなく「何ができるか」が問われており、「知る=できる」へ、学びの意味が転換しています。

改革の方向はシンプルで、普通で、常識的な学校に戻すことです。先生も生徒も、良いと思うことを自由に試せる学校へ。ヒエラルキーを倒し、最も現場に近いところに意思決定を置く。
私は校長として、子どもたちの心の水底まで降り、喜怒哀楽を一緒に受け止めるそんな教員集団をつくりたいと思っています。

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