PRINCIPAL INTERVIEW

「学習の転移」を促す国際バカロレア教育の実践
取材日 : 2024.03.08
  • 中学校
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東京学芸大学附属国際中等教育学校 様

校長:荻野 勉 先生

「学習の転移」を促す国際バカロレア教育の実践

国際バカロレア(以下IB)認定校でもあり、SSH校にも指定されている国際色豊かな東京学芸大学附属国際中等教育学校。IB教育を起点に国際社会で生きる力を身に付ける教育を実践されている荻野勉校長にお話を伺いました。

まずは東京学芸大学附属国際中等教育学校の特長を教えてください

本校の最大の特徴は生徒のバックグラウンドの多様性です。そしてその多様性を教育の場に活かしているということです。本校は創立18年目の歴史の浅い学校ですが、前身である東京学芸大学附属大泉中学校は、60年近く前から帰国生を受け入れてきた帰国生徒教育の草分け的存在でした。また、同附属高等学校大泉校舎は帰国生徒だけの学校でした。それら前身校のDNAを引き継ぎ、2007年に合併し中高一貫校の本校が誕生しました。
現在、入学の時点では生徒全体の約30%が外国から帰国した生徒、または外国籍の生徒です。半期に一度帰国生を受け入れており、高校3年生になるまでに約半数の生徒が世界各国にバックグラウンドを持つ生徒で構成されることになります。帰国生とそうでない生徒のクラスを分けることなく同じ教室で学ぶため、教室内で多様性のある環境が作られています。
中1から高1までの4年間、全生徒がIBプログラムにおけるMYP(中等教育プログラム)で学びます。高2からは、選択・選抜式で、DP(ディプロマプログラム)を各学年約15名が履修できるようになっています。多様性のある学習環境の中で、IBという手立てを使い、グローバル社会に貢献できる若者を育成する教育を行っています。

>>国際バカロレア(IB)とは?
https://ibconsortium.mext.go.jp/about-ib/

IBの教育課程のなかで生徒にどのような力を身に付けて欲しいですか

本校の人づくりのグランドデザインである独自学習領域「国際教養」で6年間取り組むことにより、国際社会に貢献できる人になって欲しいと思っています。「国際教養」では、自ら研究をする力を身につけるために各学年で取り組むべきことを決めています。またIBにはATLスキルと呼ばれる生徒が身につけるべき力が分類されています。具体的には、コミュニケーション力、社会性、自己管理能力、リサーチ力などで、総合的に言えば、「グローバル社会で生き抜く資質・能力を持った人」の育成を目指しています。

貴校はスーパーサイエンスハイスクール(以下SSH)にも指定されています。IBだけでなくSSHなどを組み合わせて独自の教育を展開しているのでしょうか

IB教育のMYPを中1から高1までの4年間続けますが、要所要所に科学技術人材育成を目的としたSSHの取り組みを取り入れています。もちろん、高2、高3でDPに進んだ生徒も、一般課程に進んだ生徒も、SSHの活動は続きます。
SSHの2期目がおわり、令和6年度から3期目に入っていきますが、今期からは「文理融合基礎枠」での指定となります。どうしても今までは理系要素の強いSSHでしたが、そもそもIBの学びは社会課題を解決するために、教科横断的に文理融合で考え、探究活動を通してソリューションを出していくという流れがあります。ですから、理系に囚われず、教科横断的に課題を見ていくなど、本校が元来目指していたSSHができるようになったとの想いでこの3期目を取り組んでいこうと思っています。

文理融合、教科横断といった場合、多角的な視点で物事見ることが大事になると思います。普段の授業ではどのような学びを展開していますか

MYPを実施している学校では、そもそも教科横断的な取り組みをすることが義務付けられています。 授業の一例ですが本校では、いろいろな生き物の生物学上の定義を理解した上で、それをもとに架空の生き物を創造してみる。そしてその生き物に鳴き声をつけるという授業を行っています。(架空の生き物をボッケモンと呼んでいます。)理科、美術、音楽の学習を融合した学びです。

実際に生徒が制作した爬虫類のボッケモン
台座にはQRコードがあり、スマホで読み込むと鳴き声が再生される

また、本校では各教科がカリキュラムマップをつくっていて、各学年、各教科で今何を学んでいるのかが一覧でわかるようになっています。そのマップを見ながら、この授業とこの授業を組み合わせてやったらおもしろそうだなど、自由に考えもらい、それを授業の中に組み込んでいます。

廊下に張り出されたカリキュラムマップ

生徒の興味関心は無限です。一つの刺激を与えると、一つの教科ではとらえきれないいろいろな興味が沸いてきます。IBではそれを「学習の転移」と呼びますが、Aの教科で教わった概念がBの教科で別の形で出てくるということを教科横断的な取り組みとして授業化しています。教えたい抽象的な概念を、具体的な授業で探究的に理解し、それを別のコンテクストでも応用できるようになることを目指しています。IBには16の重要概念というものがあります。各教科で授業案を作る際は必ずその16の概念のうちのどれかが理解できるよう、生徒の興味関心をひきだし、段階的に他の教科に広げていくよう授業づくりをしています。
ですから、生活との関連も重視します。数学では独自テキストを作っていて、生活の中にある数学をテーマに補助教材としてまとめています。例えば東京タワーとスカイツリーが同じ高さに見えるのはどこかというのを計算させると、実際そこに行って確かめてみたいという生徒も出てきます。生活の中にある様々なことが学びに繋がってくるということが実感できる内容になっています。

知識技能習得と思考力や主体性育成などのバランスについてはどう考えていますか

それらのバランスのとれた資質・能力の育成こそが、人生の幸福度や社会的成功を収める可能性を高めるものであると考えます。決して知識技能を軽視しているわけではありません。しかし、そこだけを高めても、一時的に学力は上がるかもしれませんし、大学に合格するには効率がいいのかもしれませんが、果たして生涯の幸福や社会的な成功につながっているのか、社会の発展に寄与できているのかと問うと、必ずしもそうではないということが明らかになってきています。受験で問われる内容や受験を取り巻く環境も変わってきています。生涯学び続ける人に育て、その結果、社会に貢献でき、本人も幸福になる、そんな人に育てる教育を行っています。

IBにおいてはリフレクション(振り返り)が大事だと思います。何か取り組まれていることはありますか?

リフレクションはIBの授業でとても重要です。メタ認知力を鍛えるためにリフレクションを授業の中に位置づけて、多くの授業では、最後に何を学んだのかを書かせて提出させています。例えば体育などの実技の授業であっても、振り返りを書く時間があります。そこで学んだことをしっかりリフレクションさせ、次の改善につなげていくことを重要視しています。その結果、体育の授業では、みんなが楽しめて体を動かせる新しい競技の創作にも取り組むようになりました。

将来的に取り組みたいことはありますか

ここ2、3年でグローバルな問題はより顕在化しています。平和維持の観点からの地政学的な問題、AIの問題、感染症の問題など、社会を大きく変えてしまうほどの問題が次々と起きています。現代はこのような問題に直面しながら生きていかなければならない時代です。新しく出てきたこれらの問題に対して個人として、またチームとしてどう向き合うか、という問題意識が本校の教育の根底にはあります。現象面では異なった課題のように見えますが、私は、どんな課題もその根源は同じだと思っています。「人間とは何か」「人間は何のために生きているのか」「自分の人生の使命は何なのか」そういった問いを突きつけられているように思えるのです。本校の次の発展を考えたとき、哲学に還っていくような気がしています。学習の転移の根底には、知を組み上げるにふさわしい足腰の強いしっかりとした心的基盤とも言える素地が必要だと思います。強固な土台があれば上に積み上げるテーマが何であれ、しっかりとした答えが築けると思います。そういった人に育てていくために、哲学的なアプローチが必要かなと思っています。

株式会社NOLTYプランナーズ