PRINCIPAL INTERVIEW

志を持ち、自走する人を育てる 
取材日 : 2023.12.06
  • 中学校
  • 高等学校
山脇学園中学・高等学校 様

校長: 西川 史子 先生

志を持ち、自走する人を育てる 

120年の歴史を持つ中高一貫校の山脇学園中学校・高等学校。伝統校でありながら、時代に合わせ進化し続けることを重視し、生徒のみならず教員を含めた組織としても主体性や自主性を育む場づくりの実現を目指す、西川史子校長先生にお話を伺いました。

まず初めに、山脇学園の教育として大切にしていることについて教えてください。

本校は今年で創立120周年を迎えた伝統のある学校ですが、伝統を大切にするだけでなく、適切に進化していくことを大事にしています。2009年に、新しい学園づくりを目指して、「山脇ルネサンス」という大きな学校改革を行いました。英語とサイエンスの二つを軸にして教育の展開をしていくために施設や制度を整えました。学習する環境は整備されましたが、その中身に関してはまだまだ課題があります。英語とサイエンスを軸に据えながらも、学校全体として社会で活躍する女性をどのように送り出すのかという点です。本校の生徒は素直で明るく、ひたむきな生徒たちばかりですが、自分で掴みに行く力がもう少し欲しいとも同時に思っています。もっとできるのに、この程度で良いと思ってしまっているところがあると感じます。どうすれば生徒自身が自ら考え、主体的に行動できるようになるのか、その点を考えながらいろいろと取り組んでいます。

自分で掴みに行く力、つまり主体性や自主性を育むためにはどのようなことが必要と思われますか。

今年コロンビア大学に進学した生徒がいました。教員が「あなたなら海外大を目指せる」と言ったときには、自分にできるんだろうか、という反応をしていました。ところが「何ができるのか考えて、やってごらんなさい。」と背中を押したところ、自分で考え、必要なアクションを起こし、遂には合格することができました。そのようにみるみると成長していく姿を目の当たりにし、生徒たちには「やってみたい」、「自分でもできるかもしれない」と思えるようなステージを適切に与えると、教員が想定していなかった以上の実りや、自分の志を見つけて自走していくことができる、と感じました。
「自走と志」は本校が大事にしているキーワードです。志とは、人生のどの場所にいても見失うことがない北極星のような道しるべです。自己実現をどう果たすのか、どう生きていくのか、そして他者や社会にどう貢献できるのか。人はそれらを実感できてこそ、幸せな人生を送ることができると考えています。本校のキャリア教育はこの「志を育てる」というところを軸にしています。

志を育てる上でどのような声掛けを行っていますか。

私は中1の道徳の授業を受け持っています。授業の中で「志が決まっている人」と聞くと、挙手したのは8クラス中10名くらいでした。すでに志がある生徒たちは、例えば大谷選手のように「マンダラチャート」のようなものを作って、目標に対して今何をしたらいいかを考えて、早速動き始めては、と話しました。重要なのは、まだ見つかっていない生徒たちがどうしたらよいかということです。生徒たちを見ていると、自分自身に制限をかけていたり、自分の得意や苦手を決めつけたりしてしまっている子が多いと思います。中学受験の経験でも、私のレベルはこの程度だと、刷り込まれているかもしれないとも思います。最初の道徳の時間で、それを外しなさいと伝えています。自分はこの程度だ、得意だから、あるいは苦手だから、必要ないからと決めつけてしまっていては、成長ができません。頭が良い人とは、あらゆるものから学び取り、繋ぎ合わせる力を持つ人だと考えます。様々なことにチャレンジし、次のステージに上がってみないと、自分の中にある志は見つからないのです。だから生徒たちには、「出会う人・経験全部から学びなさい。学び取る力、学ぶ力を身につけなさい。」と伝えています。

具体的に何か取り組みはされていますか。

中高6年間で自分だけの志を身につけるために、本校ではたくさんのチャレンジを用意しています。また学校内でできる体験は限られているので、企業や大学、地域が中高生のために用意している企画や大会などで、腕ためしすることを奨励しています。これを本校ではマイステージと言っています。成果として賞を取った生徒は、中1~高3までの全校生徒の前で表彰をします。月に1回、表彰の機会を設けているのですが、この間は40人程表彰しました。俳句や絵画のコンテスト、あるいは英語スピーチや科学コンテストなど内容や規模は様々なのでが、全員一律に表彰します。賞を取ったことだけでなく、本気でステージに上がり、挑戦したことを称えたいと思っているからです。またそれを知った他の生徒が、私にもできるかもしれないと、刺激をもらって欲しいとも思っています。
生徒の成長のために学校としてできることはステージを用意することだと思います。教員があれこれと指示を出すのではなく、目標となる適切なステージの場を提供し、生徒自身がそこに向かって自走する過程が、生徒の成長と変容には重要だと思います。

教員の皆さんが、生徒の可能性を信じることも重要ということですね。教員の姿勢として何か気を付けていることはありますか。

「教員と生徒は相似性を成す」と思っています。つまり、自分で課題を見つけて、アクションを起こすような主体性のある生徒を育てたかったら、教員自身もそうでないといけないのです。管理職が言ったことをひたすらにこなすだけの教員だったら、教員の言う通りにする生徒しか育ちません。そういう意味で、教員の力が最も発揮できるような職場でないといけないと考えています。自走する生徒を育てたければ自走する教員、自走する組織である必要があります。
校長として、学校全体の目標や今年度の目標など大きな方向性は示し、それをもとに、各分掌、各学年チームの目標をそれぞれに出してもらっています。目標管理を行うのは校長や教頭の仕事ですが、現場でやりたいことや成果を出すべきことは、各チームのリーダーに裁量権があります。チームや一人ひとりの良さや強みが発揮できるようにしたいと思い、組織づくりにも力を入れています。

それでは、御校の取組みの中で特徴的な、2つのアイランド(イングリッシュアイランドとサイエンスアイランド)とラーニングフォレストについてお聞きします。その名称に至った背景や取り組み内容について教えてください。

ネーミングが上手くいけばその企画の半分は成功していると思っています。ちょっとかっこよく、ワクワクするような施設にしたいと思い、個性を出した名前に決定しました。
2つのアイランドができたのは、前述した「山脇ルネサンス」の時です。イングリッシュアイランドは、とにかく生徒が楽しめる、教室とは違う空間にしようと思いつくりました。そこに行ったら、ネイティブの教員とアクティブに英語を使い、間違えても気にしない、そのような場所を目指しました。できたばかりの頃、多くの中学受験生が来て、「ここだったら英語楽しくやれそう」と胸を躍らせている様子をたくさん目にしました。

イングリッシュアイランド

サイエンスアイランドは、閉学した短期大学が持っていた食物科や家庭科の研究施設を、もともとあった実験室や屋外実験場と一緒に繋げて作りました。そこに行ったら探究する気持ちになって、実験や研究を楽しもうと思える環境を目指しました。

サイエンスアイランドに掲載されている研究結果をまとめたポスター

ラーニングフォレストは、書架のほか、グループワークやプレゼンテーション、中央展示、ラウンジなど6つのエリアから構成されています。この名称は生徒の案から選ばれました。知識の森でありたい、そこに行けば、たくさんの知識や情報の恵みを受けて、自分たちがそこからすくすくと育っていくのだという、その生徒の理由がとっても良かったので、ラーニングフォレストという名前になりました。

ラーニングフォレスト

生徒の意見も積極的に取り入れているのですね。

今年行った120周年記念の行事も生徒主催で行いました。記念式典や、卒業生が1400名ぐらい来てくれたホームカミングデイなど、全てです。私たち教員が到底考えつかないようなことを思いついて、提案、実行してくれて、全部本当に面白かったですね。また最近の生徒たちの変化としては、想いを語るようになったということです。例えば少し前までは、朝礼などでの実行委員の言葉といえば、ルールとか諸注意が主だったのですが、今は120周年記念委員長も、山脇祭実行委員長も体育祭実行委員長も、行事にかける想いをしっかりと語るようになりました。伝統校としては、先輩たちの想いを引き継ぎ、さらには後輩にも渡していくことが重要です。想いを引き継いで、何ができるかを自分たちで考えようとしているのはとても良い変化だと思います。

ある程度裁量を与えるということも大切ですね

そうですね。やってみなければわからないところもありますよね。先回りするよりも、ある程度自由にやってみて、その中で責任が取れるのか、周囲の人を納得させられるのかを考えながら調整する力をつける必要があります。生徒からは「山脇で本当にいろいろなことをやらせてもらえている」「背中を押してくれる」という声をよく聞きます。嬉しいですが、私自身はまだいける!もっと積極的に動けるし、提案できると思っています。生徒が自分の力を信じ、挑戦できる環境づくりを今後も先生たちと考えていきたいです。

株式会社NOLTYプランナーズ