PRINCIPAL INTERVIEW

繋がりを重視し、開かれた学校をつくる 新生飯能高等学校の取組み
取材日 : 2023.11.10
  • 高等学校
埼玉県立飯能高等学校 様

校長:矢島 得充 先生

繋がりを重視し、開かれた学校をつくる 新生飯能高等学校の取組み

2023年度より埼玉県立飯能南高等学校と統合し、生徒の資質・能力育成にも力を入れた単位制普通科として新たなスタートを切った新生埼玉県立飯能高等学校。改革1年目の学校を率いる矢島校長に、新カリキュラム策定において重視したことや開かれた学校づくりについてお話を伺いました。

まずは新校としてスタートした経緯、改革にあたってどのようなことに注力したのかについてお聞かせください。

5年前、わたしが教頭として本校に赴任した後すぐに、飯能南高校との統合の話が持ち上がりました。教頭と統合プロジェクトの担当として兼務することになり、その後、2023年度より初代校長として新校をスタートさせました。統合にあたっては、新学習指導要領の内容を読み込み、新校の教科指導、生徒指導、進路指導の取組みにどう反映していくかを考え、その方針や内容を決めていきました。
新校のコンセプトは「進学を重視した地域と協働する学校」です。飯能市には地域資源がたくさんあります。観光資源や地元産業、人的資源が揃っています。本校は伝統ある高校のため、市役所や地元の商工会議所、企業にもたくさんの卒業生がいます。そういった地域の方々と協働し、社会に開かれた教育課程にするにはどうすれば良いか考え、特に探究学習に力を入れています。より広い社会に目を向けてもらうために、まずは視野を地域に広げてもらい、地域と協働しながら学びの場を作りたいと思っています。総合的な探究の時間をはじめ、学校独自科目として新たに設定した「地域創造学」の中でも、そのような学びを深めています。
また進学に関しては、4年制大学への進学者を増やしていきたいです。これは地域の期待に応えることにも繋がります。もちろん4年制大学だけではなく、多様な進路に対応できる学校として、進路指導も丁寧にやっていきたいと考えています。

総合的な探究の時間では具体的にどのような取り組みをしていますか。

1年生では桜美林大学の方に来ていただき、ディズニー探究としてディズニーの商品開発を行っています。生徒にとっては興味関心が強いテーマなので、良いスタートとなります。2年生では鹿島建設の力を借りて、飯能市の課題について調べます。修学旅行先の課題とも比較しながら、探究していくテーマを決めていきます。3年生になると進路に応じた課題を設定し、ゼミ形式で探究を行います。探究サイクルを細かく回しながら、生徒の視野を広げていけるように取り組んでいます。まずは課題意識を持つことから始まり、他者との協働、相手の意見を聞く、自分の意見を表現するという力を身に着けてもらいたいです。また他者との関わり合いの中で、折り合う部分や納得解を探していくということも経験してもらいたいです。今の生徒はコロナ禍を経て、コミュニケーション力が低くなっていると感じています。卒業し、どんな進路を歩もうとも、人との関りはそこに必ずあります。生徒には、自分の言葉で表現できる力に加え、コミュニケーション能力を培ってもらいたいと思っています。

新カリキュラム策定にあたり苦労したことなど教えてください。

教員の意識をどのように変えていくかという点が一番苦労したことです。教員としては、これまで慣れ親しんできたやり方があり、全体方針として決まったことがあっても、最終的には教科内の各々でやりやすいように変えてしまうということが起こります。そうならないために、教科の枠を超えて全体として推進していきたいと思い、様々な立場の教員を集め、プロジェクトチームを作り新校の教育課程を組みました。メンバーには宿題を出して、それぞれの考える新教育課程を持ち寄ってもらい、意見を出し合いながら形にしていくという作業をしました。他校の取組みも参考にしながら、それぞれが考え、皆で持ち寄って話し合い、教科の教員ともキャッチボールしながら修正するということを続けました。
また常に何かを決断する時は、新校の基本方針に必ず立ち返るということを意識しています。そうでないと迷走してしまいます。基本方針に照らし合わせながら、学校として目指していることと合致するのかを確認して取捨選択を行っています。例えば家庭科の授業内で以前から地元の保育ボランティアを行っています。保育系を目指す生徒も多く、地元の子供たちと交流し、ボランティアを通して自分の将来を考えてもらうという内容です。この取り組みは新校の基本方針にも合致しているので、継続して行っています。今までの取組みも継続できることは継続し、新たに必要なことは基本方針に沿って決めていっています。来年からはリベラルアーツという教養科目を追加する予定です。哲学や芸術などのテーマを設定し、探究していくということをやっていきます。

今年度からの取組みの中で、すでに見えてきている成果などはありますでしょうか。

新校1年生では特進クラスを作りました。よりレベルの高い大学へ進学を目指す生徒に向け、授業レベルも上げています。特進クラスの生徒たちが学年全体として、学習に向かう雰囲気を作ってくれていると思います。
4月にラーニングコモンズ室という名称の自習室を開放しました。ラーニングコモン室は高さの違うテーブルや椅子が用意してあり、カフェ風な家具が揃っています。このような部屋を作った経緯としては、学校の中に非日常的な空間が欲しいと思ったからです。学校の中に教室とは少し違う空間があっても良いなと。最近はカフェで勉強している学生が多いです。わたし自身もやってみようと思い、新校の構想を土日にカフェで考えていました。すると、仕事はとても捗り、いろいろなアイデアが思いついたのです。家でも教室でもない場所の方が、リラックスして集中できると考え、カフェ風な自習室を学校の中にも作りました。特進クラスの生徒は日頃からよく利用しています。考査前は、そのほかのクラスの生徒も訪れ、椅子がないくらいに賑わっています。自習室の利用が増え、生徒たちがみんなで学習できる場所ができたのは良かったと思います。また、学生チューターにも来てもらっています。県の事業として学習サポーターというものがあり、普段の授業についていけない生徒の支援のために大学生に来てもらう事業ですが、本校では大学進学を目指す生徒にもアドバイスをしてもらえるような学生チューターを自習室に配置しています。生徒にとっては、年齢が近く、いろいろな相談ができる相手のようです。またチューターの学生さんは、放課後の生徒指導の役割も担ってくれているため、教員の働き方改革、業務負担軽減にも繋がっています。

第三の空間としては、御校の図書館が有名かと思います。図書館での取り組みについても改めて教えてください。

本校の図書館は「すみっコ図書館」という名称で、司書の湯川(写真右下)がたくさんの工夫をしてくれています。学校の図書館は生徒が来てくれることに意味がありますが、なかなか利用が少ないという課題がありました。そこで、アカデミックな本を借りるだけでなく、生徒にとってなじみやすい場所となるよう、学習できる場所、喋っていい場所、ランチが食べられる場所などをセクションごとに分け、生徒が様々な動機で図書館に集まってくるような仕掛けをたくさん作っています。図書館に来る生徒の中には、教室に居場所がない生徒もいます。図書館で同じような境遇の子と繋がったり、先輩、後輩と出会ったりして、生徒たちのネットワークが教室の外でも広がっていく役割も担っています。すみっコ図書館は生徒の居場所として、仲間と繋がれる場所として機能しています。

すみっコ図書書館 こたつスペース
すみっコ図書館 司書 湯川康宏 さん

今は一人で何でもできる時代です。誰かと繋がろうと思えばネットでも繋がれます。ところが多くの生徒は人と向き合うとうまく喋ることができません。コロナ禍を経て、通信制高校を第一希望として目指す生徒も増えてきているようです。通わないとできないこと、学校としての場の価値を伝えていきたいと考えており、本校の図書館、自習室、探究学習はその意味としての取組みです。

今年から発足した探究部があるとお聞きしました。立ち上げの経緯や取り組み内容について教えてください。

地域と協働する学校を目指すということで、探究部を作りました。探究部での活動や学びが、普段の授業へも良い影響を与えてくれるのではないかと、相乗効果を期待しています。現在の部員は1年生が7人です。noteで日々の活動も発信しています。今年は初年度なので教員主体で進めていますが、生徒のほうからやりたいと主体性を見せてくれることもあり、とても良い傾向だと思います。次年度から後輩が入ってくれば、リーダーとしてどうしていくかというところも、生徒と一緒に考えていきたいです。

探究部顧問 松田 洋一 先生

新生飯能高校として、学校での学びを通して生徒にどんな力を身に着けて欲しいと考えますか。

これからの時代は不透明で予測不可能な時代です。生徒には、そのような中で力強く生きていくための力を養ってほしいと思います。様々な課題を自分事として捉え、その課題に対して問いが立てられる力、仲間と協働して課題解決をする力、言語化する力を身に着けて、次の進路に繋げていくための3年間にしてほしいです。
また他者との関りをきちんと持って、良好な関係を築いて欲しいと思います。本校では、探究的な学びを通じて、地域、企業、大学等にお力添えをいただき、生徒の目を外に向けさせようとしております。学校という箱から外に出て、魅力ある大人(夢や目標のあるエネルギッシュな)と出会うことで多くの刺激をもらい、自分を見つめ、将来どうありたいか、考える一助となればと考えております。相手の意見を聞き、尊重し、他者との違いを認められる、そういう人に育って欲しいと思います。そして世界を拡げる、一歩踏み出す力をつけて欲しいです。学校はそのきっかけづくりをしていきたいと思っています。学校という箱の中で教育を帰結するのではなく、地域、企業、大学の力を借りて、新たな気づきを得て欲しいです。人生経験豊富ないろいろな方と高校時代の成長期に関わって欲しいと思っています。

最後に、5年後を見据えて取り組んでいきたいことはありますか。

生徒の学びをどうしたら教員が支えられるかについて考えていきたいです。学校の中で一番時間を費やすのは授業です。授業をどう魅力あるものにしていくか、学びの質を高めていけるか、これが根本であり原点です。授業を基盤にできていないと、そのほかの取り組みも意味がなくなってしまいます。授業を公開して、教員同士が学び合い、指導力をつけていく。また教科の専門性を高めるだけでなく、教科横断的な学びも進めていきたいです。それがベースにあればいろいろな取り組みが活きてきます。また現在は、一人一台タブレット端末を備えていますが、活用が進んでいないという全体的な課題もあります。使えば便利なツールですが、教員の意識を変えないと今までと同じような授業になってしまいます。教員の意識改革のためにもGoogle for educationの認定資格を全教員に取得するようにしています。全教員が資格を持って授業ができるようにしていきたいです。生徒にとって身近な大人である教員が魅力的であることが学校教育の質を高めることになると考えております。これからは授業力をつけ、自然に教員が学び合える環境を整えていきたいと考えています。

株式会社NOLTYプランナーズ