PRINCIPAL INTERVIEW

地域のプラットフォームとなる学校へ
取材日 : 2023.11.07
  • 高等学校
茨城県立筑波高等学校 様

校長:石塚 照美 先生

地域のプラットフォームとなる学校へ

2024年度より、「進学アドバンストコース」「地域キャリアデザインコース」の完全2コース制にカリキュラムを変更する茨城県立筑波高校。地域に根差した探究活動である「つくばね学」を柱にどのような仕組み作りをしているのか、石塚校長にお話を伺いました。

まずは御校の教育や学校として大切にしていることを教えてください。

来年度より、4年制大学進学に特化した「進学アドバンストコース」と、就職・専門学校を目指す「地域キャリアデザインコース」の完全2コース制に変わります。それに伴い、総合的な探究の時間により力を入れ、これまでやってきたことの強化と新たな取り組みを行う予定です。また学校としては、筑波高校を地域の中心としての役割を担う学校としたいと思っています。これを「筑波高校プラットフォームプロジェクト」と呼んでいます。現在、地域に応援される学校になるよう、積極的に学校外に出向いて活動を行っています。

総合的な探究の時間では具体的にどのような取り組みをしていますか。

総合的な探究の時間を本校では「つくばね学」という名称で実施しています。1年生から3年生まで、3年間かけて一つのテーマに取り組みます。テーマの中心となるのは地域についてです。地域の課題発見、課題解決、地域貢献を軸にしています。1年生では、地域を知る活動を主に行い、そこから課題となる探究の種を見つけます。2年生の9月から3年生の7月までは、実際に学校の外に出向いて地域の方々と交流しながら活動を行います。現在、15の事業所にお世話になっており、生徒はそれぞれのテーマに関連した事業所へ週一回フィールドリサーチに行きます。約1年間の体験実習の中で、途中で中間報告会を行い、最後に成果発表会を行います。

生徒にとっては課題発見やテーマ設定が最初の難関かと思います。どのようにサポートをされていますか。

今年校長として赴任して、探究活動の様子を見ていると、目的や目標がきちんと定まらないまま地域に出向いている生徒も多くいました。ただ何となく体験活動を行うのではなく、課題を自分事として考えることが重要だと思います。そのために、まずは地域を知り、探究の種を見つけるということが必要です。今年から1年生には探究の種を見つける、課題発見のための時間をとるようにしました。地域の方に街の中を案内していただいたり、講演会をしていただいたり、そのような活動を通して、自分たちの足で歩いて、地域の人と交流する中で課題を見つける。そしてそれを解決するにはどうすれば良いかと考えて欲しいと思い、地域の方々からもご意見をいただきながら、探究活動の見直しをしています。

地域の方々からの協力を得るために行っていることはありますか。

探究で地域での体験実習を行うのは、今年で8年目になります。きっかけは2012年5月に起こったつくば市の竜巻被害の復興支援活動です。学校は竜巻による被害があまりありませんでしたが、学校の近辺は大きな被害を受けました。高校生も復旧のための手伝いに出向き、地域の方々と触れ合ったというのがはじまりです。地域の人たちに感謝の言葉をもらい、生徒の自己肯定感の向上に繋がりました。このような災害復興だけでなく、地域、社会と高校生をつなぐ機会が多くあった方が、もっと生徒も生き生きと過ごせるのではないかと考えて地域実習体験がスタートしました。ところが8年も経てば、教員も変わり、考え方も変わります。生徒も大人とのコミュニケーションの取り方に慣れておらず、地域の方々に不快な思いをさせてしまったり、あるいは大人の言っていることをよく理解できなかったりします。今年4月に各事業所へご挨拶に回った時、厳しい言葉もいただきました。これはまずいなと思い、わたし自身何度も事業所や地域の集まりに出向き、コミュニケーションをきちんと取ることを意識しました。
また今年の8月には情報交換会を行いました。地域の方には生徒のことや学校の実情を知ってもらう必要があります。学校側も地域のことを知らなければいけません。情報交換会では、「つくばね学」を立ち上げた教員に来てもらって、当時の話をしてもらいました。経緯やその時の想いなど、本校の教員でも知らない人が多く、改めて勉強の機会にもなりました。わたしからは、これからの「つくばね学」の想いを聞いてもらいました。そのような話の後にグループを作って、今後の「つくばね学」をどうしていくか、生徒への接し方などの意見交換を行いました。学校と事業所だけでなく、事業所同士の横のつながりを作ってもらうことも意識しました。事業所同士がつながると、ほかの事業所も紹介していただき、どんどんネットワークが広がっていきます。筑波高校に行けば、高校生とおもしろいことができる、地域のことが分かるという、地域のプラットフォームとしての学校という立ち位置になれればいいなと思います。これが冒頭申した通りの「筑波高校プラットフォームプロジェクト」です。今後はここに生徒も参加して欲しいと思っています。生徒の声も聴きながら地域と一緒に作り上げていきたいと思っています。

大学との連携も盛んだとお聞きしました。どのような活動をされていますか。

筑波大学や筑波学院大学と連携しています。筑波学院大学は高校生向けの講義をしていただいています。また筑波大生とは一緒にビオトープも作りました。大学生が生物多様性についての講義をし、ビオトープ作成までに至りました。来年から筑波大生には探究の種を見つけるところから入っていただき、探究・研究のやり方も教えてもらう予定です。高校生にとっても大学生は年齢が近く、話しやすい雰囲気もあるので良い刺激になっていると思います。

それでは来年度からの新コースについて詳しくお聞かせください。

「進学アドバンストコース」は4年制大学の進学を目指し、「地域キャリアデザインコース」は就職・専門学校を目指すコースです。今までは2年次からのコース選択でしたが、来年度からは入学時にどちらかのコースを選択します。カリキュラム、教科書も時間割も違います。特に探究学習では、「進学アドバンストコース」では進路に向けた学問的な探究を目指します。例えば近隣の商店街では経済の種が見つかるかもしれない。筑波山はジオパークになっているので地質の種、国指定文化財からは歴史や文化の種が見つかるかもしれない。学問目線での探究をしてほしいと思っています。「地域キャリアデザインコース」は今までの「つくばね学」を踏襲し、仕事目線で自分が社会に出ていくときにつけたい力、社会にはどのような仕事があるのかを考える探究を目指しています。

どちらのコースも3年間で5単位の探究時間をとっています。多くの学校が3単位の中、5単位行う意図、思いを教えてください。

やはりフィールドとなる地域に出向きますので2時間続きの時間が必要です。また進学を考えても総合型選抜、学校推薦型選抜の入試が増えてきたことが背景にあります。高校生として3年間、どのような活動をしたのか、どのような思いで過ごしてきたのか、ということがますます重要になってきています。つくばね学が生徒にとって自分の言葉で語ることのできる非常に重要なものになると思うので、なるべく時間をとっています。

新コースがはじまる中で先生の対応も必要になっていくかと思います。先生方の反応はいかがでしたでしょうか

県の教育委員会の発表の前に、教員には改革の経緯とこれからについての説明をしました。変化のタイミングはチャンスなので、たくさんの意見を出してほしいとも伝えました。例えば今、部活動の地域移行についての議論が盛んに行われています。ならば本校がモデルになるような取り組みができないかという意見も出ました。最近、近隣の旧筑波東中学校跡にBMXのコースがオープンしました。それに伴い本校ではBMX部を新設する予定です。つくば市とタイアップして進める話も出ています。学校公式InstagramTikTokのアカウントも開設しました。生徒の生の声を直接届けたいとの思いから提案してもらったものです。また今年の文化祭は全てキャッシュレスで行いました。こちらも他学校の事例を見つけてきてくれた教員が提案してくれました。このように教員も、やりたかったことをやる、変えるチャンスとして変化を前向きに捉えてくれています。

<KDDI、つくば市の高校でキャッシュレス学園祭>
日本経済新聞記事:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC01E7P0R01C23A1000000/

たくさんの意見が出るのは素晴らしいですね。教員とコミュニケーションをとるうえで心がけていることはありますか。

校長室をオープンにして、職員室にも顔を出し、ひとりひとりに声をかけています。風通しをよくして、いろいろな意見を交わせるように心がけています。

最後に、貴校での学びを通して、生徒にどのような力を身に着けて欲しいと思いますか。またどのような大人になって欲しいとお考えでしょうか。

やはり、社会人基礎力は身に着けて欲しいと思います。また地域を自分事として考えられるようにもなって欲しいなと思います。ここで学んだことを活かして、将来住む場所に還元できたらよいと思います。また異年齢の方々や地域の方々とのかかわりを通して、コミュニケーションがしっかりとれる生徒になって欲しいと思います。

株式会社NOLTYプランナーズ