PRINCIPAL INTERVIEW

生徒の個性に応じた1,600通りの学びを目指す
取材日 : 2023.10.20
  • 中学校
  • 高等学校
横浜創英中学・高等学校 様

副校長 本間 朋弘 先生
校長補佐 山本 崇雄 先生

生徒の個性に応じた1,600通りの学びを目指す

学年や学級を超えてカリキュラムや時間割を生徒たち自身で作っていくーーーこれまでの学校のシステムを根本的に変える学校改革を進めている横浜創英中学・高等学校。改革の根底にある教育に対する考え方を2人の管理職にお伺いします。

日本の教育の問題についてどのようにお考えでしょうか。また、御校ではその問題にどのように対処されていますか?

山本先生(以下、敬称略):今の日本の子どもたちの多くは、与えられる教育に慣れてしまい、依存型の学びになっていると感じています。例えば中学校では、登校後に朝テストや読書など決められたことをすることから始まり、決められた時間割で授業を受け、給食では決められたメニューを食べます。放課後も部活動や塾などで忙しく、子どもたちが自由になるのは夜になってしまいます。そんな子どもたちに「やりたいことはない?」と聞くと「ゲーム」「寝たい」といった答えが聞かれます。その答えに嘆く前に、子どもたちの置かれているシステムを疑うべきではないでしょうか。

依存型の学びの特徴とはどんなものですか?

山本:例えば、先生が一方的に進める一斉授業の形式だと、子どもたちは先生の教え方を比較するようになります。そして、「もっとわかりやすく教えてほしい」「もっとわかりやすい板書にしてほしい」「もっと資料が欲しい」とサービスを求めるようになります。 ですから、横浜創英では、子どもたちを依存型にするサービス提供型の教育をやめようと考えています。

子どもたちの学びを自律型に変えていくために学校として何から始めたのですか?

山本:まずは、全職員で目指すべき最上位目標を合意し、理解することが大切です。本校の教育目標は「考えて行動できる人の育成」です。まさにこれが自律です。
さらに、この目標を達成するために子どもたちに身につけて欲しい3つのコンピテンシーと9つのスキルを整理しました。
コンピテンシーとは繰り返し経験を通して身につけていく非認知能力で、本校では「自律」「対話」「創造」としました。
さらに、この3つのコンピテンシーに紐づく、9つのスキルを決めています。例えば、自らの感情と言動をコントロールする (セルフコントロール)や対話を通して他者との共通の目的を 見つけ出す(パブリックリレーションズ)など、実社会でも求められる具体的なスキルです。また、これはOECDが示している2030年に向け子どもたちに身につけてほしいコンピテンシーとも一致しており、世界が目指す教育とも言えます。

3つのコンピテンシーとスキルについての詳細はこちら
https://www.soei.ed.jp/competency/

コンピテンシーの実現のために全ての教育活動があるということなのですね。

山本:はい。企業のコアバリュー経営のように、目指す目標をはっきりさせ、手段はある程度自由であるべきだと考えています。アクティブラーニングかそうではないか、教える授業か教えない授業か、このような二項対立ではなく、どのような教育をしたら、このスキルを身につけることができるかを考え、先生たちの個性や強みが活かされるといいと思います。
「教える」のが得意な先生、小テストなどでこまめに生徒の成長を見てあげるのが上手な先生、自由進度学習を取り入れた先生、優しい先生、厳しい先生・・・多様な授業から、多様な学びが生まれるのだと思います。大切なのは、学び方を選ぶのは生徒自身であるということです。

御校のコンピテンシー実現のためのカリキュラムについて教えてください

本間先生(以下、敬称略): ポイントの1つ目は「自由選択制の大幅な拡大」です。必修科目を最低限にして、カリキュラムの大半を自由選択科目で構成します。本校では学び方改革を進めるうえで、「学びを生徒主体に移譲する」という最上位目標を掲げました。生徒に選択する自由が与えられなければ主体性を育むことはできません。生徒の興味関心や進路の方向性は全員違います。全校生徒が1,600人いれば1,600通りのカリキュラムを作ることは必然であると考えています。来春に新しいカリキュラムを発表しますが、2025年からは、本校では時間割がなくなり、個人スケジュールという名称になる予定です。
2つ目は「学年制を柔軟に捉えること」です。社会に出れば、あらゆる年齢の人と仕事をしていきます。その多様性の中で我々は、反面教師や、ロールモデルに出会っていくと思います。それならば、学校も同じ年齢の人とだけ学ぶ必要があるのでしょうか。自分のスキルを用いてどのように社会に貢献していくのか、様々な学年の生徒たちと協働して探究活動に取り組んでほしいと考えています。

新しいカリキュラムではどのような授業が展開されるのでしょうか?

山本:先ほどお話しした通り、何をどう学ぶのかを選ぶのは生徒自身です。ですから、一人の先生で全てを教えようとするのではなく、チームで先生方の強みを生かして子どもたちを育てていくイメージです。、多様な選択肢から、生徒が学び方を選択できるようになっています。学年に関係なく、文法を教員から教わる教室や、生徒同士で教え合う部屋、マインクラフトを使って学習する教室、AIと学ぶ教室などがあります。
例えば文法を教える教室で過去形について扱うとします。そこには、まだ過去形を学んだことのない中学1年生が予習しに来たり、復習したい中学3年生が来たりします。つまり、授業の中で飛び級や留年ができるということです。みんな一斉に合わせる授業は非効率な学びだと考えています。

本間: 高校の教育活動の中から2つの事例をお話したいと思います。1つは高大連携です。現在、筑波大学・法政大学など7つの大学と連携協定を結んでいます。本校では、高校3年生の午後を自由選択科目 の時間にしていますので、生徒にはその時間を利用して大学の探究型の授業を自由に受けることができます。そして、大学で履修したことを高校の単位として認めるシステムも整えました。
2つ目は高校1・2年生の異学年制で展開されるコラボレーションウィーク(合教科授業)です。48人の教員が、教科の違う教員とペアを組んで24の講座を設定します。1週間通常の授業を止めて、生徒は教員から発せられたミッションを受け、8時間に及ぶ探究活動を行い、最終日にプレゼンテーションで発信をします。
私(教科は日本史)も英語科の山本校長補佐と組んで、幕末の福沢諭吉を題材にしてミッションを設定しました。ミッションは以下です。「日本の英語教育は本来の目的を失っていないか。英語はツールにすぎないのに、ツールを教えることに終始していないだろうか。大切なことは、英語を使って何をしたいのか。英語を使って社会にどう貢献していくのか。世界をどう変えていくのか。日本の英語教育の本来の目的を考え、その目的に沿った自らの英語の学習方法を考えなさい」。
教科によって育てられる資質能力や表現方法は違います。私たちはそれを社会の状況に応じて組み合わせて生きています。そのことの認識を深めるとともに、リアルな学びをすることで、生徒と社会をつなげていきたい。探究型の学習を進める際、教員は「専門外のことはできません」ということをよく言いますが、本校では、教員は生徒と社会をつなげる支援者に徹しています。

このような授業では学ぶ内容に抜け落ちが生まれませんか?

山本:学びには、ジグソーパズルの端から順番に埋めていく学びと、自分の好きなことのピースを点々と置いていく学びがあると思います。先ほど紹介した英語の授業での例を紹介します。教科書を順番に学ぶような学びについては、情報を全てクラウド上にあげて子どもたちが自由にアクセスできるようにしています。教科書本文の訳や音声情報に加え、本校の協力者でもある葉一さんの解説動画のリンクも貼ってあります。子どもたちはテストなどを小目標にこれらの素材を使って学ぶことができるわけです。ですから、学校を休んでいても教科書の学びは自分でできるように整えています。

そのような取り組みを経て、生徒のみなさんの自律が育まれている実感はありますか?

山本:子どもたちに授業を選択させ始めた当初は、3分の1ぐらいの生徒が授業中に喜んでゲームをしたり、動画を見たりしていました。でも「サボる権利はあるけど、誰かの学びの邪魔をしない」という約束だけ伝えて、行動は自己責任。教員も決して叱らず、コーチのように見守っていきます。それが少しずつ、頑張り始める友達の姿を見ることになります。自分はどんな自分になりたいのか、どうすれば良いのか、サボることも含め自己決定を繰り返すわけです。こうして、なりたい自分に向かってより良い選択ができるようになるまでに1年かかる生徒もいます。この期間を象徴的にリハビリ期間と呼んでいます。

時間がかかる生徒に対して、無理に学びを促すことはせず、待つということでしょうか?

山本:そうですね。社会に出たら、注意してくれる親や先生はいません。ゲームをやめるのも、勉強を始めるのも自分自身で決めるしかないわけです。これを今のうちから繰り返し経験しておくべきだと考えています。
待つことができるかどうか、それってガーデニングに似ていると思うのです。種が死なない限り芽は出ます。どの生徒にも可能性の芽は必ずあります。大切なのは水をあげたり、空気があったり、太陽を浴びる環境があること。その環境を整えるのが学校の役割です。ただ、「芽出てないけど大丈夫か、早く出せ」「ちょっと切れ目入れてやるよ」と刺激を与えたり、水を与えすぎたりしても芽は出ません。これまでも授業の上手い教員は、生徒に水をたくさん与えるのではなく、生徒が水を飲みたい状態にする。ですから、矛盾して聞こえるかもしれませんが、主体性を育てるには授業の上手な先生の役割も重要です。
あとは、生徒が自分の伸びたい方向に進むために自分で必要な学びを探していく。そのような環境を整えることが重要だと考えています。自分の学力をメタ認知し、苦手なことは自分でできるようになってもいいし、誰かに頼ってもいい。周りと助け合いながら成長していくスキルを手に入れて欲しいのです。

これからの学校は生徒にとってどのような場所であるべきであるとお考えですか?

本間:これからの学校は社会で活躍する準備の場所に変わっていかなくてはなりません。社会で必要な経験の場を学校がどれだけ提供できるか、それをカリキュラムに焦点化できるか。このことがこれからの学校の大きな役割になってきます。
昭和や平成の初めであれば、受験勉強を頑張って一流大学に入り、 定年まで一流企業で働く選択は合理的であったかもしれません。しかし、近い将来、 今ある企業は形を変えていくかもしれないし、なくなるかもしれません。人口が多い時代であれば、儲かっている企業の真似をしていれば良かったのです。でも、今の時代は真似事ではなく、人が誰もやっていないことを考え、実行する力がないと社会を生き抜くことはできません。
いずれ、自分の強みを活かして起業する時代、転職を繰り返す時代、海外に市場を求める時代が必ず来ます。生徒自身が自分の強みや尖がりがどこにあるのか。それを学校で発見できるカリキュラムを構築していくことがこれからの学校に求められてきます。

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学校長 工藤 勇一先生による「リーダー養成講座」(中学3年生以上が受講可能)

最後に今後の展望をお聞かせください。

本間: 私たちは、生徒の20年後、30年後が幸せであってほしいと願っています。そのためには、どうしても学校を社会と同質化していく必要がある。そもそも、学校教育の目的は、社会を担っていく人材の育成にあったはずです。いつの間にか、学校は自らを閉ざし、自らの枠の中だけで完結することを考えるようになってしまいました。18歳の頂点学力をゴールにして、その先の教育を考えることから目を背けているようにも感じます。
正解のない時代だからこそ、「自分は何が強みなのか」「自分は何ができるのか」「自分は何を実践したいのか」そして、「自分は社会にどのような貢献をしたいのか」。そうした問いかけに対して、自分の言葉で明確に答えることができ、実践できる子どもを育てること。そのことが、横浜創英がやるべき教育であると考えています。生徒一人ひとりには、「私以外には誰もできないこと」を発見し、その終点にたどり着いてほしい。そのゴールに向けた学校づくりを進めているところです。

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