PRINCIPAL INTERVIEW

誰一人取り残さない探究学習(自由研究)〜玉川学園高等部のSSHの取組み〜
取材日 : 2023.10.06
  • 高等学校
玉川学園高等部 様

玉川学園高等部長:川﨑 以久哉 先生
玉川学園高等部 SSH主任:矢崎 貴紀先生

誰一人取り残さない探究学習(自由研究)〜玉川学園高等部のSSHの取組み〜

設立当初から「自由研究」として探究活動を先進的に行ってきた玉川学園高等部。同校の高等部長の川﨑先生、SSH主任の矢崎先生に生徒の主体性育成を軸としたスーパーサイエンスハイスクール(以下、SSH)の取り組みや今後の展望についてお伺いしました。

玉川学園高等部の歴史や教育理念について教えてください。

創立者の小原國芳が、全人教育と個性尊重に加え、労作教育と宗教教育の実践を掲げて設立し、来年で設立95周年になります。小学校・中学校を最初につくり、戦後、高校、大学と広げていきました。ワンキャンパスに幼稚園から大学院・研究所まであるというのは大きな特徴になっていると思います。教育理念としては、全人教育と個性尊重が全面に出ている学校です。

玉川学園高等部のSSHについて教えてください。

今年で4期目になります。1期が5年間なので16年目ですね。本校では元々自由研究という探究学習の活動をやっていて、SSHは自由研究の理念と合うものだったので、これは手を挙げない手はないと。また本校では理系専攻の生徒数が4割弱と少なめです。そんな中で、理系にも目を向けてもらおうと、SSHにチャレンジしました。理科に限らず全教員が協力しながら取り組みを進めています。 個性尊重の理念があるので、本校では一人ひとりが全員個別のテーマを持って活動しています。生徒自身が自分の興味関心に基づき、自らの責任で活動するという形をとっています。

生徒が個別のテーマを持って探究しているということですが、生徒がテーマや問いを1人で考えるのは簡単ではないと思います。SSH認定1期目から現在にわたり、生徒に対しどのようなアプローチをしてきましたか?

中3では、総合的な学習の時間としての位置付けで「学びの技」という授業を週に2回行っています。最初の段階で、テーマの設定の仕方についての授業を2ヶ月行います。高校で自由研究を始める前に、テーマ設定の仕方を2ヶ月かけて体験し、理解できるようなシステムがあることは特徴の一つだと思います。
自由研究は3学年同じ時間帯に行っており、その間全教員が受け入れ可能な体制をとっています。教員が専門分野ごとに研究室を開いて、そこで教えきれないことは、教員が大学の専門家と生徒を繋ぐ、ということをしていました。このように、生徒が教員を選ぶという形から、現在は人文科学、社会科学、のように大きくカテゴリーを分け、その中から研究したい分野を生徒が選択し、担当教員を決定するという流れになっています。また、「研究テーマを変えたい」となったときに柔軟に担当教員の変更ができることは、同時間帯に全学年・全教員が関わることができるシステムがあるからこその利点ですね。

生徒の主体性を重んじるために教員がどの程度生徒の研究に介入していくか、さじ加減が難しいと思いますが、そこはどのように考えられていますか?

これはなかなか難しいのですが、主体性がどこで発揮されるか、何が主体性のトリガーになるかは生徒によります。だから、「これをやったほうがいい」というのはバラバラなのです。ただ、やってはいけないことはあって、「主体性を強制すること」。外に出て発表してきなさい、とか、相談してきなさい、とか。反対に、本校での調査内容から、プラスになるアプローチが二つわかっています。一つは「達成経験を与えること」、もう一つは「自己効力感を伸ばすこと」。自分はこれができる、自分はここにいていいという感覚を持ってもらえるような働きかけ、環境づくりが重要です。

生徒から、「好きなことや興味のあることがわからない、ないからテーマ設定できない」と言われたときにはどのような働きかけをしていますか?

実際にそのような生徒はいます。「興味がわからず何をすればいいかわからない」「興味が広すぎて何をすればいいかわからない」この2パターンです。本校では、そういう生徒を受け入れる相談コーナーを用意しています。マインドマップを描いてみたり、教員が問いをぶつけたり、それ以外にも、テーマ決定のためのツールはいくつかあります。実際、マインドマップが合わない生徒もいるのでいろいろなツールを試していきます。このようにして、生徒が何か気づきを得る機会をつくるようにしています。

様々な生徒に対応できるように選択肢を広く用意しているのですね。テーマ設定の時間はどのくらい用意されていますか?

4月は自分で教員に相談しながらいくつか研究室を回り、一旦所属してみます。仮入部のような状態で、5月までの間は、研究室間の移動ができます。このようにして本校では、テーマ決定に余裕を持たせています。また、1年生で1年間やってみて違うと思ったら、2年生に上がるタイミングで研究室を移動できるようにしています。
例えばある生徒は、去年哲学の研究をやっていました。研究を進めていく中で、脳科学の分野に興味が出てきたのです。でも、高校生は研究者ではないので、個人情報を扱うことや脊椎動物の実験ができません。できることを一緒に探した結果、錯視の研究を始めることになりました。この研究から発想したアイデアを世界知的所有権機関が主催するコンテストに出したところ、全国1位になったのです。
テーマの変更をしたのは高校2年生の夏休みでしたが、そこからこれだけの成果を出しました。テーマ変更はしましたが、変更前にやってきたことも全部利用して最終的にコンテストでのプレゼンテーションを完成させました。このように、本校では1年ごとではなく3年間で一つのカリキュラムと考えているので、時間的なゆとりが教員にも生徒たちにも生まれていると思います。

写真:錯視の研究で作成したベンハムの独楽(コマ)

SSH主任 矢崎 貴紀 先生

主体性という言葉がキーワードになっていますが、生徒がどのような状態になれば「主体性がある」と感じますか?

「もうやめときなよ、もう休んで明日にしなさい」と声をかけてしまう、それくらいエネルギッシュになっている状態。つまりは、「あともうちょっと、もうちょっとやりたい」という知的好奇心が溢れて、頑張ってやる、というよりは、やりたくて仕方ない状態、だと思いますね。
例えば、教員がやってもやらなくてもいい課題を出したときに、生徒がそれをやるか否かは、これは主体性ではなく「自主性」です。反対に、生徒が自分で立てた問いに対し、これをやってみようという行動は、自分の中でコントロールしないといけない。本校では、自分自身に責任をもって取り組むことができるかどうか、ここを主体性の定義としています。

進路状況についてお聞かせください。

「玉川大学に進学するのはおおよそ3割です。残りの7割は玉川以外の大学を受験し、そのうちおよそ半数が学校型推薦・総合型選抜で受験しています。自由研究での成果や経験を活かし、実績を上げています。生徒は、高1、高2の自由研究で培った武器を持っているので、基本的には大学の志望理由書にそれらを書く、という形になっています。高校での学びが大学での学びに繋がっていると思います。

今後、玉川学園のSSHの取り組みはどのように考えていますか?

新たに、「協働」をキーワードに様々な試みを始めようと思っています。本校の研究は良くも悪くも個別でやっています。そうすると、協働性が弱くなりがちです。そこを変えていきたいなと。いろいろな人の意見を聞き、自分の研究に効率的に還元できるようにしたいです。現在の構想としては、1、2ヶ月の短いスパンでチームを構成し、自分たちの研究を持ち寄り、新しいテーマをつくりアウトプットし、終わったら解散する、というものです。生徒はこの活動で得たものを個人の研究に活かし、また別のチームを作っていきます。こうやって同時多発的に協働体を作っては解散するという形を取り、自分の研究のヒントになるような場面を作りたいと考えています。これはシリコンバレーの企業でイノベーションを起こす目的で採用されている手法なのです。これを自由研究の仕組みに取り入れることで、今の時代に合った新しいタイプの探究ができそうだと考えています。
また、今まで自由研究は教員主導でやっていたところを、生徒がやる部分もあっていいのではないかと考え、生徒主体の運営委員会を組織し、自由研究の運営など、チームを組む際には生徒が生徒同士をマッチングすることができる仕組み作りを今後図っていきます。

株式会社NOLTYプランナーズ