貴校の教育理念・方針を教えてください
本校は創立101年、共学化からは22年目を迎えました。下町の地で歴史を重ねてきましたが、私たちが一貫して掲げているのは「国際社会で活躍し、生涯学び続ける生徒の育成」です。変化が激しいこれからの時代、ただ知識を詰め込むだけでは通用しません。自ら課題を見つけて学び続ける姿勢こそが生涯の武器になります。
その土台となるのが「知育・徳育・体育」の「三育」です。確かな学力、思いやりや豊かな心、そしてたくましい体。この3つのバランスが取れて初めて、社会で通用する人間性が培われます。
そして教育の中心にあるのが「貫行(かんこう)」という精神です。「自分で立てた目標に向かって、困難があっても途中で逃げ出さず、最後までやり抜く、貫き通す」という意味です。最初から何でも器用にこなす必要はありません。失敗してもいいから自分で決めた道を一歩ずつ進む。この「貫行」の経験が、卒業後も生徒を支える力になると信じています。
時代の変化に合わせて、教育内容やコース編成をどのように見直してこられたのでしょうか
私が入職した当時は、工業科と普通科が併置され、普通科内にも進学・国際・情報など多彩なコースがありました。ものづくりを支えてきた工業科の伝統は非常に誇らしいものでしたが、大学進学希望者の急増をはじめ、中学生や保護者のニーズは大きく変化していきました。
そこで、工業科を発展的に解消し、普通教育・進学教育を中心としたコース再編へと大きく舵を切ったのです。目的は単なる進学実績の向上ではありません。多様な夢や目標を持つ生徒一人ひとりの希望にしっかりと寄り添える、そんな教育体制へと改革を進めてきました。
その改革を定着させ、教育の質をさらに高めるために、就任後の2年間でどんな組織づくりを行いましたか
就任時に真っ先に取り組んだのは組織の「チーム化」です。学校という組織は、意識をしないと教員が教室や自身の担当分掌に閉じこもり、一人で抱え込んでしまいがちです。生徒や保護者、そして教員自身の満足度を上げていくには、個人の頑張りだけに頼っていては限界があります。
そこで打ち出したのが「チーム関一」です。週に1回の朝会を設けて、学校の方向性を何度も丁寧に伝え、徹底して意思疎通を図りました。
意識したのは、「目標と責任は明確にするけれど、やり方は現場の先生方に任せる」ということです。校長があれこれ口を出すのではなく、目標を定めたら現場に思い切って裁量を持たせる。先生方を信頼して任せることで主体性と責任感が生まれ、職員室の士気も目に見えて高まりました。先生方のモチベーションが上がれば、自然と生徒や保護者への対応も温かく丁寧になります。それが満足度向上につながったのだと思います。
国際交流プログラムの展開と生徒の反応はいかがですか
現在、4か国6都市7プログラムにまで広がっており、短期語学研修から中期留学、留学生の受け入れ、オンライン交流まで幅広く用意しています。
大切にしているのは、「海外研修に行って楽しかった」だけで終わらせないことです。帰国した生徒たちは大使館や総領事館を訪問し、外交官の前で成果を英語でプレゼンします。目的意識を持って取り組み、たとえ拙くても自分なりの成果を形にして発表し切る経験こそが生徒の確かな自信につながっています。
国際交流を希望する生徒は年々増えています。学校説明会でこの取り組みを知り、「留学したいから」と第一志望で入学してくる生徒も増え、本校の大きな強みとして定着しています。
生徒への生活支援や安心できる環境づくりでは、どのような取り組みをされていますか
生徒が勉強や部活動に前向きに取り組むには、学校が安心して過ごせる場所でなければなりません。いま校内には4名のスクールカウンセラーが交代で勤務し、生徒がいつでも相談できる体制を整えています。
また、日々の欠席や遅刻の情報は職員室全体でリアルタイムに共有しており、私のところにも報告が来ます。何か変化に気づいたら、すぐに連携して声をかけられるようにしています。
小さな異変を見逃さず、手遅れになる前に寄り添ってフォローし、温かく見守る指導を徹底したことで、退学率は大きく下がりました。「気にかけてもらえている」という実感が、生徒の一番の安心感になっています。
多様な入学背景を持つ生徒たちのモチベーションには、どのように働きかけていますか
本校には様々な生徒が入学してきます。第一志望で入ってくる子もいれば、高校受験で悔しい思いをして自信を失いかけている子もいます。そうした生徒たちに伝えているのは、「行事でも部活でも勉強でも、何でもいいから本気で打ち込んでほしい」ということです。
式辞などでいつも話しているのが「成長マインドセット」です。「失敗したら恥ずかしいからやらない」ではなく、「挑戦して転んだ経験こそが人を成長させるのだ」と伝えています。英検の全員受験などもそうですが、成功も失敗も全部ひっくるめて受け止めながら、挑戦する姿勢を後押ししています。
英検の「全員受験」は、どのように運用されているのでしょうか
1・2年生を対象に、秋の第2回と冬の第3回検定を原則「全員必須」として学校で一斉受験させています(3年生は任意)。
春の第1回は準備期間なので任意ですが、担任の先生方が面談などで「腕試しに受けてみようよ」と背中を押してくれた結果、今年度は1年生の第1回受験者数がぐんと増えました。
「一部の得意な子だけが受ける」のではなく、「クラスみんなで挑戦する」空気があるとハードルが下がります。合格した生徒は自信がつきますし、残念だった生徒も放課後に質問に来るなど前向きな連鎖が生まれており、学年全体の学習意欲を引き上げてくれています。
生徒との交流において、校長先生ご自身が実践されている工夫は何でしょうか
本校には約2,700人の生徒が在籍しているため、全員と深く関わるのは容易ではありませんが、校長室にこもっていては生徒の本当の様子は見えません。ですから、毎朝必ず校門に立って自分から「おはよう」と挨拶をしています。表情や歩き方を見ていると、日々の調子が肌感覚で伝わってきます。
また、海外派遣の引率にもできる限り一緒に行きます。言葉の壁にぶつかりながら現地に馴染んでいく姿を見守り、夜のミーティングなどで将来の夢や悩みをじっくり聞く時間は本当に貴重です。甲子園や国立競技場で戦う部活動を全校で応援するあの一体感も含め、生徒と感動を共有する接点を大事にしています。
ここからは、探究担当の長尾先生にお話を伺います。
探究活動の導入の経緯と、3年間の全体的な設計についてお聞かせください
本校が総合的な探究の時間の枠組みづくりを始めたのは約10年前です。形だけの調べ学習ではなく、「自分自身をよく知り、周りとつながりながら、自分の進む道を自分で選べるようになる」ための探究を目指しています。
カリキュラムは、1年次に企業連携やグループワークを通じた「居場所づくりと心理的安全性の醸成」、2年次に修学旅行を軸にした「地域理解と自己の振り返り」、3年次に「志望理由書の作成と進路実現」へとつなぐ、3段階のストーリーで組み立てています。
1年次の探究では、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか
1年次で何より優先しているのは、難しい探究の手法を教えることではなく、クラスの中に「ここにいていいんだ」という安心感や居場所感をつくることです。
本校には高校受験で思い通りにいかずに悔しさを抱えた生徒もいます。そうした子たちには、まず「自分の話を否定せずに受け止めてもらえる」という土台が必要です。
ですから、1年次は企業連携プログラムやグループワークなど、対話活動を多く取り入れています。正解が一つではない問いに仲間と意見を出し合い、どんな意見でも受け止められる経験を重ねることで、「自分の言葉で安心して話せる関係性」をじっくり育てています。
2年次の探究は「修学旅行」を中心にどのような取り組みを行いますか
現在は、NOLTYスコラ 探究プログラム 地域旅行・探究編を活用しています。
流れとしては、まず自分たちが住む地元の魅力や課題を見つめ直した上で、修学旅行の訪問先の歴史や地域課題を事前学習で調べます。現地で実際の人や文化に触れた後は、振り返りと内省(リフレクション)を行います。
予想と実際の体験の違いを突き合わせ、「なぜ違ったのか」「自分はどこに関心を持ったのか」を掘り下げます。外の世界を知ることは自分自身を知ることです。他者との違いを認識することで自分の興味が明確になり、3学期には進路ツールを使いながら志望理由書の作成へと自然につなげていきます。
NOLTYスコラ 探究プログラム 地域旅行・探究編はこちら >>>
https://www.noltyplanners.co.jp/schola/inquiry-program/product/sdgsschooltrip/
学校全体で探究を進めるために、工夫されていることはありますか
探究は教科書通りにいかないため、先生方にとっても不安になりやすい分野です。本校では担任が主導しますが、一人で抱え込まないよう教員同士のサポートを大切にしています。
具体的には、教員用チャットツールで実践例を頻繁に共有しています。「こういう声かけをしたら議論が盛り上がった」といったアイデアをリアルタイムで投稿します。これがあることで、経験の浅い若い先生でも安心して授業に臨めます。先生同士が助け合いながら進められる雰囲気ができています。
今後の探究活動の展望や、新たな挑戦について教えてください
来年度から、最難関大学への進学も視野に入れた少人数制の「叡智(えいち)コース」を新設します。ここを本校の探究を進化させる実証的なチャレンジの場としても位置づけています。
DXハイスクールに関連したデータサイエンスの活用を勧めながら、企業の研究機関と連携するような研究型の探究に取り組んでいきたいと考えています。
大切なのは、叡智コースだけで終わらせないことです。少人数で試してうまくいったノウハウや教材を、他のコースにもどんどん還元していく。最先端の挑戦をするエンジンと、全体へ広げる大規模校のスケールメリットを連動させ、生徒一人ひとりの可能性を広げる探究をつくっていきたいと思っています。
関東第一高等学校ホームページ>>>
https://www.kanto-ichiko.ac.jp/


