PRINCIPAL INTERVIEW

実践的な学びで生徒の可能性を伸ばす
取材日 : 2026.04.24
  • 高等学校
埼玉県立三郷工業技術高等学校

校長:大沼 潤一先生

実践的な学びで生徒の可能性を伸ばす

埼玉県立三郷工業技術高等学校は、5学科を擁する工業系専門高校です。全国的に産業人材不足が進む中、地域との連携を強化し、社会に貢献できる人材の育成に取り組んでいます。開校42年目を迎える本校の取り組みの現在地と、これからの展望について伺いました。

貴校の教育理念・方針を教えてください

本校が大切にしているのは、「生徒一人ひとりの可能性を最大限に引き出す教育」です。その実現のため、実験・実習・地域との連携活動、探究学習(課題研究)など、生徒が経験し、挑戦できる場を数多く設けています。

工業高校として、特に重視しているのが、ものづくりを通して学ぶ姿勢です。試行錯誤し、失敗を乗り越えながら完成へ近づいていく過程は、創造力や技術力だけでなく、粘り強く挑戦し続ける力も育まれます。挑戦は成功ばかりではなく、努力しても手応えが得られないと感じることもあります。しかし本校では、失敗を次の改良点を見つける第一歩として捉え、「そこから何を学び、どう積み上げるか」を最も大切にしています。

また、生徒の可能性を広げるために、進路の選択肢を幅広く確保する体制を整えています。高校は可能性を開花させるための通過点と位置づけ、専門性を生かした就職と、大学・専門学校への進学の両方に対応しています。進路はおよそ就職6割、進学4割で、国公立大学合格者も出るなど進学実績も向上しています。就職も高い内定率を維持しています。生徒が自分の進路を自ら選び取れるよう、学びと進路の幅を広げることを教育の柱としています。

それぞれの学科の特徴を教えてください

本校には、機械科・電子機械科・電気科・情報電子科・情報技術科の5学科があります。

機械科では、技術者を目指し、日々ものづくりに励んでいます。専門授業において圧縮空気で動くオシレーションエンジンの製作をおこなうと共に資格取得にも力を入れ、国家資格である技能検定に全員受験で取り組んでいます。機械系部活動では、1リットルの燃料で走れる距離を競う省エネカーレースにも力を入れており、県大会1位、Hondaエコマイレッジチャレンジ全国大会でも上位入賞の実績があります。

電子機械科では、エンジニア育成を目的としたプログラムを中心に、ロボット相撲やキャリアロボットなど、各種ロボット競技大会への出場を通して実践力を高めています。

電気科では、電気工事士などの資格取得を軸に学びを深めます。加えて、本校最寄りの新三郷駅前のIKEAと連携し、店舗内でミニ新幹線を走らせて子どもたちに乗ってもらうなど、民間企業と協働した活動にも取り組んでいます。

情報電子科では、情報デザイン(グラフィックデザイン・CG)と情報インフラを学び、学校近隣の企業CM制作を手がけるほか、技能五輪に挑戦し全国大会に出場しています。

情報技術科は、ITエンジニア育成を目的とし、社会人も参加する情報技術・プログラミング系コンテストに出場し、全国上位入賞や優勝といった成果を上げています。

貴校ならではの取り組みについて教えてください

学校・地域・産業界が協働し、生徒の成長を支える仕組みづくりを進めています。本校は、埼玉県の事業である「工業高校と地域による未来共創プロジェクト」の指定校でもあり、地域企業・自治体・大学と連携しながら、「課題研究(探究的学習)」や「実践的なキャリア体験」、「社会で求められる力を育てる共同プロジェクト」など、教室の外に広がる学びにも積極的に取り組んでいます。

今後は、教育委員会、小・中学校の教員、商工会などが参画するコンソーシアムの設置も構想しており、地域全体で産業人材を育てる体制づくりを目指しています。また未来共創プロジェクトのコーディネーターが週2回来校し、生徒の学習・活動支援、教員との授業・連携企画の相談、企業・大学・自治体との橋渡しなどを担っています。こうした支援により、地域とのつながりが日常的に学校へ取り込まれています。

連携の成果は、最新技術に触れる学びや、実社会につながる実践として具体化しています。たとえば大塚商会から寄贈を受けたAIロボット「temi」5台を活用し、共同授業の開発やプログラミング学習を実施しています。図書館仕様の「temi」では、生徒がタッチパネル操作でおすすめ本を提示する仕組みを実装するなど、用途に応じた改良も進めています。AI活用は手探りだからこそ、AIに任せきりにせず、自分で考える基礎を土台にAIを使いこなすことを重視し、外部専門家とも連携しながら教育の在り方を検討しています。

企業等による特別授業も実施しています。ゼブラの協力では、AR/VRを黒板のように使って空間に描画する体験や、オリジナルカラーのインク・マーカー作りに取り組みました。開発途中の技術に高校生の意見を取り入れるなど、「学ぶ側」から「一緒に作る側」へ踏み込める点が特徴です。さらに専門学校等と連携し、一眼レフの撮影会やPhotoshopのレタッチ講座といった表現系の学びも行い、現場機材に触れ、プロから直接指導を受ける機会につなげています。

地域連携では、生徒が学んだ知識・技術を地域へ還元する機会も重視しています。八潮市の中小企業団体と協働する年1回のものづくり体験イベントでは、生徒がスタッフとして缶バッジ制作のブース運営を行いました。価格設定や提供方法まで考え、当日の販売・運営を通して改善点を学ぶ機会となりました。前述のIKEAと連携したミニ新幹線のイベントでも、運行に加えて発車ベル装置の制作など「来場者がより喜ぶ工夫」を生徒自身が考えて追加し、安全運行のための整備や配線の見直し、微調整を重ねました。来場者の反応が責任感と意欲を引き出し、人の流れや天候など実施して初めて気づく要素も含めて学びが深まります。運搬費の負担等を企業と交渉する場面もあり、技術だけでなく実務感覚も養われています。

さらに、夏の熱中症予防や冬の乾燥対策に役立つ温湿度計の開発では、色で危険度を示す仕組みを設計し、内部に約4000円のArduinoのマイコンを使用しました。費用面の課題に対しては「これからは自分たちで取りにいく時代」という考えのもと、生徒が主体となって企業と交渉し、教員のサポートを受けながら出資を得て商品化へつなげました。

このような実践の場では、生徒は失敗と改善を重ね、企業や地域の方々との対話を通じて大きく成長します。学校で与えられたものを作るだけでなく、エンドユーザーを意識して考えることで、技術力に加えてコミュニケーション力や多角的な視点も養われる学びとなっています。

キャリア教育はどのように取り組まれていますか

キャリア教育では、1年次から計画的にキャリア形成を行い、外部講師の講演の実施や県の事業である「探究型インターンシップ」への参加を促しています。1日で完結する探究型インターンシップは、多くの職場を見学・体験でき、早い段階でキャリア意識を形成できます。1年次に方向性をある程度定めることで、2年次の取り組みが深まり、3年夏の進路決定にもつながります。また特徴的なのは、単なる職場体験にとどまらず、企業から課題が提示され、その解決策を考える点です。たとえば「どうすれば特定の年齢層の来店を増やせるか」「高校生がラジオを聴く機会を増やすにはどうするか」といったテーマに取り組むことで、多角的に考える力や実践的な課題解決力が養われます。

また、専門高校として資格取得にも力を入れています。最初は比較的取り組みやすい資格から挑戦し、「取れた」という成功体験を積むことで、勉強のやり方や「やればできる」という感覚をつかみ、その後ぐっと成績が伸びる生徒が多いです。

さらに本校では、3年後には社会に出るという意識を早い段階から持たせるために、社会人の基礎を日常の学校生活で徹底しています。提出物の期限を守る、身だしなみを整え、マナーを守るといった積み重ねに加え、スコラ手帳を活用して締切りや予定を書き込み、自己管理を習慣化します。校内ではスマートフォン使用に制限があるため、手帳にメモを取る力も育ちます。卒業後に「在学中は面倒に感じたが、社会に出て役立った」と実感する声も多く、保護者からも評価されています。

スコラ手帳の役割についてはどのようにお考えですか

多様な学びや体験が増えるほど必要になるのが、学びや生活を自分で管理する力です。本校はスコラ手帳を、自己調整力や自己管理力を育てる重要なツールとして位置付けています。手帳を通して自分の状態を理解するメタ認知を育て、「計画→実行→振り返り→改善」のサイクルを自ら回せるようにしていきます。

特に1年次はまず毎日書くことを徹底し、習慣化を図ります。最初はうまく書けなくても構いません。継続する中で記録の取り方や振り返りの質が高まり、学年が上がるにつれて、生徒自身が自分に合った使い方へと発展させていきます。こうした土台があることで、探究、インターシップ、資格取得などの経験も学びとして整理・蓄積され、主体的に学びを深められるようになります。書いて残してきたことは、自分が何を考え、どう行動し、どう変化してきたかを後から確認でき、入学時から卒業時までの成長の過程がポートフォリオのように残ります。これは就職・進学前の自己理解や自己PRにもつながります。

スコラ手帳の活用は、生徒が自分の未来を自分でデザインする力を育てる継続的な取り組みです。今後も実践の質を高めながら生徒の成長を後押ししていきます。

埼玉県立三郷工業高等学校のスコラ手帳の取り組みについての詳しいインタビューはこちら >>>
スコラ手帳で育む高校生のセルフマネジメント力…三郷工業技術高等学校の事例

先生間の連携においてはどのようなことを取り組まれていますか

入試では学科ごとに募集していますが、1年次は学科混成のミックスホームルームとし、6クラスの少人数制で運営しています。少人数にすることで生徒一人ひとりに目が行き届き、教員もきめ細かな指導を行いやすくなる点が利点です。

この仕組みにより、生徒が特定学科の教員からのみ指導を受ける状態になりにくくなりました。学科の枠を越えて複数の教員が関わることで、2年次以降も別の教員が継続して助言できたり、1年次の様子を踏まえて次の担任へ情報共有したりと、学年をまたいだ連携が生まれやすくなっています。その結果、生徒も担任一人に頼るのではなく、複数の教員に相談できる関係を築けています。昨年度はミックスホームルーム導入後、初めて卒業生を送り出しましたが、教員間の連携がより円滑になった手応えがありました。

加えて、基礎学力診断テスト(年2回)などの結果を教員間で共有し、フィードバックや研修会につなげています。学年末には引き継ぎの機会も設け、学習面に加えて就職指導や生活面まで見通した支援を行っています。

3年間を通してどのような資質・能力を生徒に身に着けてほしいですか

子どもたちには一人ひとり大きな可能性があります。だからこそ、さまざまな体験に積極的に挑戦し、失敗も含めて学びながら、自分の強みや進む方向を見つけてほしいと思います。

そのために本校が重視しているのは、与えられたことをこなす力だけでなく、自分で目標を立てて行動し、振り返って次につなげる力、つまり「自分の成長を自分でつくる力」です。行事や企業連携、課題研究、資格取得などの多様な経験の中で試行錯誤し、主体性や粘り強さへとつなげてほしいです。

そして、こうした挑戦を支えるのが教員の伴走です。資格補習や大会に向けた練習、工業高校ならではの学校行事づくりなどに教員も一緒に取り組み、生徒の「やってみよう」という気持ちを引き出し、挑戦を継続できる力へと育てていきたいです。

埼玉県立三郷工業技術高等学校ホームページ>>>
 https://misato-th.spec.ed.jp/

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