山梨英和中学校・高等学校が大切にされている教育方針や教育理念について教えてください
山梨英和中高は現在、教育ビジョンとして「グローバルな世界で地球市民として活躍する自立した女性の育成」を掲げています。
本校は創立137年の歴史を持つキリスト教主義のミッションスクールの女子校です。明治時代にカナダ人女性宣教師によって設立された背景から、創立当初より高い国際性と平和教育の伝統を備えていました。「敬神(神を敬う)」「愛人(人を愛する)」「自修(自らを修める)」の3つの校訓に基づき、キリスト教信仰を礎とした全人教育を一貫して守り続けています。
私たちが目指す「世界で活躍する女性」とは、必ずしも全員が社会のトップリーダーになるという意味ではありません。多様化し激動する21世紀のグローバル社会において、他者に流されることなく、自分らしい持ち味を発揮しながら自立して生きられる人格を育てることを目指しています。
教育ビジョンを実現していくにあたり、具体的にどのような資質・能力の育成を目指しているのでしょうか
教育ビジョンを具体化し、育成すべき資質・能力を明示するため、OECDの指針も意識しながら独自に「山梨英和ラーニングコンパス」を策定しました。それは、大きく2つのカテゴリー・7項目で定義しています。
1つ目は、非認知能力にあたる「自分を大切にし、主体的に生きる力」です。ここには「自己を高める力(自己肯定感や自己管理能力)」「挑戦し続ける力(挑戦力やレジリエンス)」「他者と協働する力(協調性や異文化理解力)」の3項目を挙げています。
2つ目は、認知能力にあたる「学びを深め、世界とつながる力」です。ここには「情報を活用する力(情報リテラシー)」「課題を発見し、解決する力(問題発見力や批判的思考力)」「論理的に考え、発信する力(論理的思考力や表現力)」「探究心を持って継続して学ぶ力」の4項目を設定しています。
教員が指導案や学校行事を設計する際の指針とすると同時に、生徒自身も「どの力がどれくらい伸びたか」を意識し、振り返りを行う自己評価ツールとして活用しています。
OECDラーニングコンパス>>>
https://www.oecd.org/en/data/tools/oecd-learning-compass-2030.html
山梨英和ラーニングコンパスに基づく新しいカリキュラムの概要について教えてください
この2026年4月から新カリキュラムを本格始動させました。その中核となるのが、毎週水曜日に実施している「Self Development Day(セルフ・ディベロップメント・デイ)」です。校訓の「自修」に由来する名称で、この日は通常の教科授業を一切行わず、丸一日を探究的な学びに充てています。
午前中は英語や数学といった基幹科目をベースにした発展的な協働学習を行っています。例えば中学生の数学では、中1から中3まで合同の小グループをつくり、高校レベルの難問などに挑みます。正解を出すことではなく、既有の知識を出し合い「どう考えれば解けるか」と仲間同士でアイデアを出し合う、その思考プロセスの面白さを体験させています。
午後は「総合的な学習の時間」や探究活動を展開しています。中学〜高1はインプットを重視し、劇団四季のミュージカル鑑賞、企業との連携プロジェクト、大学訪問(ICUや教育提携を結ぶ青山学院大学など)といった校外学習を豊富に取り入れています。そうして知識や経験が蓄積した高2ではアウトプットとして、年間を通じてグループで研究プロジェクトを行います。
週の丸一日を探究に充てるという時間割は、どのように実現させたのでしょうか
教育改革を進める中で先進校を視察した際、週の一日を生徒の自主的なプロジェクトの日として効果を上げている事例があり、参考にしました。また週の中央に配置することで、生徒の学習リズムに良いメリハリが生まれるという意図もあります。
水曜日に通常の授業を行わない分、生徒の基礎学力や授業時数を損なわないよう時間割を工夫しています。具体的には、通常1コマ50分だった授業を45分に短縮し、水曜日以外の曜日を7時間授業とすることで、年間で必要な教科の学習時数をしっかりと確保しています。探究と基礎学力の双方を成立させるための仕組みです。
新しい学びを支える校内環境や施設面での工夫について教えてください
聖書に「新しいぶどう酒は新しい革袋に入れなさい」という言葉がありますが、新しい学びを行うには、従来の教室とは異なるそれに適した空間が必要です。全員が前を向いて座る教室では、どうしても受動的な発想に縛られてしまうからです。
そこで2026年8月末、校内に「ラーニング・コモンズ」を開設しました。もともとは屋内温水プールだった施設を改修したものです。温水プールは維持費が課題となっていましたが、躯体自体は非常に頑丈でした。そこで、当初検討していた図書室改装案の2倍以上の広さが確保でき、隣接する既存の大ホールとも一体化して活用できるため、プール棟の改修を決めました。
現在は、水曜日に1学年全員が揃って探究活動を行うメインスペースとして稼働しています。可動式の台形テーブルによるグループワーク席や個別自習用キャレルを備え、放課後も生徒たちが自発的な学びに集まる、本校の教育改革を象徴する拠点となっています。
(左)森島 泰則 校長 (右)上野 亮 副校長
ラーニング・コモンズ竣工式の様子はこちら>>>
https://www.yamanashi-eiwa.ac.jp/jsh/blog_education/122015
一連の教育改革に対する教員の反応や授業づくりの状況はいかがですか
教員は免許を持った専門職であり、一人ひとりの裁量の幅が非常に大きい職場です。そのため、改革の着手にあたっては様々な議論や慎重な意見があったのも事実です。しかし、実際に動き出した現在では、多くの教員が前向きに賛同し、熱心に授業開発に取り組んでくれています。
初年度である今年は、水曜日の特色ある取り組みを確立させることを最優先にしています。すでに現場では「音楽科×聖書科」や「家庭科×数学科」といった教科横断型の共同授業を教員同士が自発的に組み立てるなど、試行錯誤を楽しみながら実践が進んでいます。
取り組みを通じて見られる生徒の成長や変化について教えてください
対話や探究を重ねる中で、自分の考えを臆せず表現できるようになってきました。特に中学1・2年生の変化は顕著で、少人数制でお互いを知り合えている安心感も手伝って、人目を気にせず伸び伸びと発言する姿が見られます。
生徒自身からも「普段の授業では使わない脳の部分を使っている気がする」「自分にもこんなことができるんじゃないかと将来の可能性が広がった」という前向きな声が届いています。
学校全体に流れる女子校ならではの穏やかな空気感そのものが、生徒にとって大きな心理的な安心感をもたらしています。この温かな土台があるからこそ、講義型の受け身の授業から脱却し、自ら考え、発言し、課題を見つけて解決する探究型の学習へ前向きに踏み出せています。中高生活の中で積み上げた主体的な思考力や実績は、総合型選抜や指定校推薦といった大学受験の場でも存分に発揮できる強みになっています。
急速に普及する生成AIに対して、生徒たちにはどのように向き合わせる方針でしょうか
まだ自分の基礎的な思考力や言語力が育っていない段階で無防備に依存すると、その知的なパワーに飲み込まれ、本来伸ばすべき思考力が損なわれてしまいます。まずはAIを使わずに自らの頭で考える基礎訓練が不可欠です。
その上で、人間にしかできない決定的な役割は「問いを立てる(発見する)こと」です。生成AIは人間が問いを与えない限り何も語りません。また、出力された情報に対しても「何を前提にして導き出された回答なのか」を疑い、吟味する必要があります。
自分のものの見方や前提を問い直す力、すなわちリベラルアーツが重視する「自己吟味」の力を中高時代から育てていくことこそが、AIに支配されず主体的なツールとして使いこなすための鍵になります。
AIに決して代替できないのは「生の実体験」です。アインシュタインの言葉に「教育とは、学校で習ったことをすべて忘れた後に残るものである」という名言がありますが、大人になったとき心に残っているのは、教科書を丸暗記した知識ではなく、行事や探究活動で普段出会わない人と触れ合い、仲間と協働し、考え、意見をぶつけ合い、新しいものを生み出す生の経験です。AI時代だからこそ、リアルな体験学習の価値が何よりも高まっています。
生徒の進路支援や、中高段階における「キャリア教育」に対する考え方を教えてください
本校では大半の生徒が大学へ進学し、その多くが総合型選抜をはじめとする年内入試で進路を決定しています。探究活動で培った主体性や課題解決力が、入試の場で高く評価されている結果です。
しかし私たちが考えるキャリア教育とは、高校段階で将来就く職業を狭く固定することではありません。変化が激しく、AIの発達によって今ある仕事の多くが変わっていく時代に、出口の職業だけを決めてもあまり意味がありません。
大切なのは、「どんな職業に就くか」ではなく、「どんな職に就いたとしても、自分はどういう姿勢で仕事をする人間になるのか」ということです。自ら課題(問い)を発見し、他者と対話しながら解決策を創り出していく。この思考の土台さえあれば、どんな職業に就いても、あるいは将来転職を経験することになっても、自分の力で道を切り拓いていくことができます。
大学に入って多様な世界を経験する中で、自分の興味・関心をさらに磨き、やりたいことを見出していくのが本来の自然なプロセスです。高校生のうちから進路を性急に絞り込ませるのではなく、世の中に存在する幅広い職業や生き方を知った上で、柔軟に進路を見つけていけるよう視野を広げてあげることが、中高教育が果たすべき役割だと考えています。
6年間の学びを通じて、どのような力を身につけて社会へ巣立ってほしいと願われていますか
本校の学びを通じて、生徒たちに身につけてほしい資質は3つの言葉に集約されます。
1つ目は「自立」です。他者に依存せず、自分の頭で主体的に考え、確かな自己肯定感を持って社会へ踏み出す力です。
2つ目は「協同性(協調性)」です。自立とは孤立することではありません。一人きりで生きるのではなく、多様な他者と対話し、心を通わせながら、共に力を合わせてプロジェクトや社会課題に取り組む力です。
そして3つ目は「しなやかさ」です。人生を歩む中では、予期せぬ困難や挫折に直面することが必ずあります。その際、かつての根性ドラマのように真っ向からぶつかって折れてしまうのではなく、「別の道はないか」「こう方向転換してみよう」と柔軟に状況を受け止め、軽やかに未来を拓いていけるレジリエンス(弾力性)です。
「敬神・愛人・自修」の校訓と、新しく動き出した探究の学びを両翼として、激動の時代を自分らしくしなやかに切り拓いていく女性たちを、これからも温かく社会へと送り出してまいります。
山梨英和中学校・高等学校ホームページ>>>
https://www.yamanashi-eiwa.ac.jp/jsh/


