バックキャスティングとは、目標から逆算して行動を決定していく方法です。
バックキャスティングという言葉は知っているものの、どんなときに有効なのかわからない、どんな風にすすめればよいのかわからないという経営者・管理者の方も、多くいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、バックキャスティングの概要や事例、具体的な進め方についても解説します。
目次
バックキャスティングとは
バックキャスティングとは、未来のあるべき姿を描き、そこから逆算して今すべきことを考える手法のことです。バックキャスティングは次のような場合に有効な手法です。
●長期的な目標に対しての行動を決めるとき
●大きな変化を求めるとき
長期的な目標を立てると、到達すべき先が遠すぎて、どんな風にそこを目指せばいいのかわからなくなることがあります。そんなときには、バックキャスティングの手法を用いて逆算すると、すぐに取り組むべきことがわかります。
また、大きな変化を求めるときにもバックキャスティングが有効です。日々の改善の積み重ねで生まれる変化は、現状から派生したものばかりになりがちです。しかし、先にあるべき姿を決めることで、変化を生むための行動を期待できます。
SDGsにも、バックキャスティングの発想が用いられています。SDGsとは、2030年までによりよい世界を目指す国際的な目標のこと。2030年にあるべき姿として17の目標が掲げられ、より内容を具体化した169のターゲットが設定されています。さらに、各ターゲットの達成度合いを測るための物差しとして、232の指標が用意されています。
目標だけを見ると漠然としていますが、ターゲットと指標が用意されていることで、具体的に何をすればよいのかがわかりやすい構造と言えるでしょう。
バックキャスティングとフォアキャスティングの違い
バックキャスティングと相対する考え方として、フォアキャスティングがあります。フォアキャスティングとは、現在の状況からどんな改善が見込めるかを考え、少しずつ積み上げていくやり方です。
フォアキャスティングとバックキャスティングには、それぞれ次のようなメリット・デメリットがあります。
|
メリット |
デメリット |
---|---|---|
バックキャスティング |
・大きな変革を起こしやすい |
・短期での改善は見込みにくい |
フォアキャスティング |
・実現性が高い |
・消極的になりやすい |
バックキャスティングは、先に目標を定めるために大きな変化を起こしやすく、より効果的な行動を起こしやすい手法です。しかし、長期的な目標に対して行動するため短期での改善は見込みにくく、状況の変化に対応しにくいというデメリットがあります。
一方、フォアキャスティングは、現状から考えるため実現性が高く、強みを活かしやすい点がメリットです。ただ、コストや人手不足などの現実的な問題が足を引っ張り、大きな変革を起こしにくい面もあります。また、改善を積み上げていくことでどんなところにたどり着くのか、最終的な姿が見えにくい点もデメリットです。
バックキャスティングの具体的な事例
バックキャスティングの手法を利用して目標を掲げている具体例として、次の3つをピックアップしました。
●トヨタ環境チャレンジ2050
●EARTH FOOD CHALLENGE2030
●ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ
それぞれ、詳しく紹介します。
トヨタ環境チャレンジ2050
トヨタ環境チャレンジ2050では、2050年に向けて次の6つの目標を掲げています。
●ライフサイクルCO₂ゼロチャレンジ
●新車CO₂ゼロチャレンジ
●工場CO₂ゼロチャレンジ
●水環境インパクト最小化チャレンジ
●循環型社会・システム構築チャレンジ
●人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ
これだけだと漠然としていますが、それぞれの目標に対して、2030マイルストーンと呼ばれる途中経過に対する目標が設定されています。例えば、ライフサイクルCO₂ゼロチャレンジの2030マイルストーンは、ライフサイクルでのCO₂排出量2013年比25%カットです。
さらに現状として、次のような内容が発表されています。
●2020年モデルのプリウスPHVではCO₂排出量8%カットを達成(2012年モデルプリウスPHVとの比較)
●自然エネルギー由来の電力を使用することによってさらなる削減が可能
2050年を期限として掲げた目標に対して、途中経過を設定するとともに、現状がどのようになっているか、今後どのような策で目標に近づいていくかが分析されていることがわかります。
EARTH FOOD CHALLENGE2030
EARTH FOOD CHALLENGE2030は、日清食品グループが掲げた環境戦略です。2030年に向けたチャレンジとして、次の6つが掲げられています。
●地球にやさしい調達
●地球資源の節約
●ごみの無い地球
●グリーンな電力で作る
●グリーンな食材で作る
●グリーンな包材で届ける
例えば「地球に優しい調達」の項目では、2030年までにパーム油の持続可能な調達比率100%を目標として掲げています。さらに現在行われている取り組みと、2030年に向けてこれから行う取り組みに分け、具体的な活動内容が公表されています。
ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ
ピープル・アンド・プラネット・ポジティブは、イケアが掲げたサステナビリティ戦略です。2030年に向けて、次のような目標を掲げています。
●健康的でサステナブルな暮らし
●サーキュラー&クライメートポジティブ
●公平性とインクルージョン
また、目標達成に向けた計画として、次のような例が紹介されています。
●イケアの家具に第二の人生を与える
●地球にやさしい食品を導入する
●世界各地で難民を支援する
具体的な取り組みの内容は、サステナビリティレポート FY20として、詳細なレポートを発行しています。
バックキャスティングのやり方
続いて、バックキャスティングの流れについて見ていきましょう。具体的な手順の一例は次のとおりです。
1.未来のビジョンを設定する
2.課題の洗い出しを行う
3.課題達成のための行動を考える
4.行動を起こすタイミングを決定する
それぞれの項目について、詳しく解説します。
未来のビジョンを設定する
まずは、未来のビジョンを設定します。ビジョンの設定にあたっては「なれそうな姿」ではなく、「あるべき姿」を設定するのがもっとも重要なポイントです。
また、目標だけでなくそれをいつまでに達成するか、期限も設定しましょう。期限を設定しないと、「いつか達成したい夢」として具体的なアクションを起こせないまま時間ばかりがすぎてしまう可能性があります。
課題の洗い出しを行う
次に、ビジョンに近づくため課題の洗い出しを行います。ビジョンを達成するために、何が不足しているかを考えてみてください。例えば「5年後に女性管理職の比率を30%以上にする」という目標を立てた場合、課題として考えられるのは次のようなポイントです。
●女性社員が管理職を希望する割合が低い
●全社員に占める女性の割合が低い
●女性管理職のロールモデルが不足している
課題を考えることは、現状とビジョンに差がある理由を考えること、とも言えます。多角的な視点から課題を見つけられると、ビジョンに近づきやすくなります。洗い出しのあとは、それぞれの課題を解決する優先順位も設定してください。
課題達成のための行動を考える
次に、課題達成のためにどんな行動が必要か考えます。このとき、実現の可否を考えてしまうと視野が狭くなりがちです。そのため、ブレインストーミングの手法を利用して、できるだけ数多くのアイディアをリストアップしましょう。
行動を起こすタイミングを決定する
最後に、設定したビジョンを達成するために起こすべき行動と、その時期を決定します。実践すべき行動を絞り込んだら、それを時系列順に並べてマップを作成しましょう。
社員の目につくところにマップを設置することで、社員にもアクションや目標に関する意識づけが可能です。マップを設置する場所としては、次のような例が考えられます。
●オフィスの壁に大きなマップを設置する
●マップをプリントして社員に配布する
●社員用手帳にマップを掲載する
オーダーメイドで情報を掲載できる社員用手帳については、次のページでご紹介していますのでぜひご覧ください。
社員用手帳
個人単位でのバックキャスティングには手帳が有効
手帳というスケジュール管理のツールとして捉えられがちですが、実はバックキャスティングによる目標達成のためのツールとしても有効です。
大抵の手帳は年間、月間、週間という単位でページが作られています。それぞれのページに長期的、中期的、短期的な目標を記入し、具体的な行動予定まで落とし込んで記入すれば1冊でスケジュール管理と目標管理を完結することができます。
予定に対する実績も振り返り、日々PDCAを回していけばなりたい姿に着実に近づくことができるはずです。
目標管理をしやすくPDCAを回しやすい手帳
あるべき姿に近づくためにはバックキャスティングでのアプローチが有効
バックキャスティングは、未来のあるべき姿を設定し、そこから逆算してやるべきことを設定していく手法です。SDGsへの取り組みも、バックキャスティングの発想で行われています。
バックキャスティングは、大きな変革を求めたいときに適した手法です。この記事を参考に、バックキャスティングでのアプローチに取り組んでみてください。