PRINCIPAL INTERVIEW

未来を創る力を育む―稲城市の教育が目指すものー
取材日 : 2026.03.11
稲城市教育委員会

教育長:杉本 真紀子 先生

未来を創る力を育む―稲城市の教育が目指すものー

小学校12校、中学校6校を設置する東京都稲城市では「未来を創造し、生き抜く力の育成」の実現のためさまざまな取り組みを進めています。今回は、稲城市教育委員会の皆様に、同市の教育の特色や現在の取り組みについて伺いました。

稲城市の教育の方針、また特色について教えてください

令和7年3月に「第4次稲城市教育振興基本計画-稲城市教育プラン」を策定しました。これは、第1次から第3次までの流れを踏まえつつ、新たな教育課題にも対応する形でまとめたものです。学校教育については、「未来を創造し、生き抜く力の育成」を目標に掲げ、グローバル時代に活躍する力の育成、誰一人取り残さない教育の推進を重点項目とし、地域の方々をはじめ多様な関係者と連携しながら推進していく方針です。

また稲城市では平成20年代から、ESD(持続可能な開発のための教育)を特色ある教育活動の中心に据えてきました。地域の協力を得て、特産である梨づくりや、人権に関する学び、歴史など、地域の魅力を生かした学習を長年進めてきた実績があります。そうした土台の上に、現在は視野を世界へと広げたESDの推進に一層力を注いでいます。外部人材の参画を進めたり、英語教育を充実させたりしながら、子どもたちがこれからの社会で必要となる力を育めるよう取り組んでいます。

ESDの具体的な取り組みについて教えてください。

外部機関と連携した新たな実践を進めています。その中心となるのが、一般財団法人ピースコミュニケーション財団と共催した「国連を支える世界こども未来会議 in INAGI」です。令和6年度、7年度と継続して実施しています。

ESDは、「持続可能な社会をどう築くか」を探究する教育活動です。稲城市では、小学6年生が自分の考えをまとめ、発信する力を育む場として「国連を支える世界こども未来会議」を設けています。各校の代表児童2名が市役所に集まり、チームごとにプランを作成し、稲城市議会の議場で発表します。

この取り組みは、全国のいくつかの地域でも実施されており、全国大会も開催されています。全国大会でプレゼンテーション力などが高く評価された児童は、最終的にニューヨークの国連本部へ企画書を持って行く機会もあります。昨年度は、稲城市からも1名が実際に国連を訪問しました。

こうした経験を通して、子どもたちが「自分たちの考えが社会や世界につながっている」と実感しながら学べることが、大きな意義だと考えています。実際に国連まで行ける子どもはごく少数ですが、参加した子どもたちには、その成果をさまざまな場で発信してもらっており、学びの広がりや波及効果も期待しています。

中学校ではどのような取り組みをしていますか

令和6年度から東京外国語大学の協力を得て、留学生との交流を進めています。同校には、英語を母語としないさまざまな国・地域から留学生が来ていますが、その中でも国際的な視点から教育を学んでいる研究室に協力いただき、生徒たちと交流する機会を設けています。授業の枠に限らず、日常的な会話ややり取りを通して、英語を実際に使う場面を多くつくっています。

例えば、職場体験のレポートを発表する場に留学生にも参加してもらい、英語で質疑応答を行うといった工夫をしています。留学生と一緒に社会のことを考え、可能な限り英語を使うことで、実践的なコミュニケーション力を育てています。

また、英語教育の環境整備として、令和7年度からは外国語指導助手(ALT)の体制も充実させました。それまでの時間単位の委託配置から、増員したうえで市の会計年度任用職員として、学校に一日常駐できる体制にしています。授業だけでなく、休み時間、給食時間、放課後まで、子どもたちが学校生活のさまざまな場面で英語に触れられるようになりました。

さらに、長期休みには英語教室を開いたり、市民も参加できる英語フェスティバルを実施したりしています。こうした取り組みを通して、子どもたちだけでなく、地域や保護者の皆さんにも英語や学びの楽しさを感じていただけるようにしています。

地域と学校の連携における取組について教えてください。

地域と学校の連携は、長い歴史の中で積み重ねてきました。その中心の一つが、「地域教育懇談会全体会」です。これは昭和60年代から続く組織で、市内6つの中学校区ごとに地域の方々が集まり、子どもたちの健全育成について話し合ってきました。地域ぐるみで子どもを育てる土台が長年築かれてきたことは、本市の大きな特徴です。

令和6年度からは、この全体会を発展させ、「地域教育フォーラム」として新たに実施しています。関係者だけでなく「誰でも参加できる場」として開いており、地域の方々による取り組みを共有するだけでなく、専門家にも参加いただき、活動への講評や助言をいただいています。こうした機会を通じて、地域の力をさらに子どもたちの学びへと結びつけ、より多くの方々に関わっていただけるよう取り組んでいるところです。

「だれ一人取り残さない教育」についてはいかがでしょうか

現在、全中学校すべてにサポートルームを設け、支援員が常駐しています。さらに東京都から派遣された不登校巡回指導教員2名が各校を訪問し、教員全体で連携を図っています。

また、教育センター内に教育支援センターを設置し、通所できる子どもに居場所や集団活動、個別学習を提供しています。今年(令和8年)4月には分室も開設し、受け入れ体制を広げます。

令和8年度には、市内中学校の空き教室を活用した「チャレンジクラス」を開設する予定です。子どもが安心して過ごせる居場所づくりを第一に考え、生活リズムに合わせた個別学習や、体験活動も取り入れます。また、地域の方々や外部専門家とも協力しながら、多彩な体験を用意し、新しい学びの場として準備を進めています

教育委員会と小中学校の連携はどのように行っていますか。

代表的なものの一つが、教育委員会による学校訪問です。以前は指導課(現・教育企画課)の指導主事を中心に実施していましたが、現在は教育委員会の各課が交代で訪問し、チームとして学校対応を行っています。学校運営は授業づくりだけで成り立つものではなく、施設の活用や事務、就学援助など、さまざまな側面があります。そのため、各課の職員が学校を訪れ、それぞれの立場から子どもたちの学校生活や学校運営の状況を把握し、学校と連携しながら教育環境の充実を図っています。

また、月1回の定例の校長会をはじめ、教務主任会や生活指導主任会など、さまざまな会議の場を通じて、教育委員会と学校との間で連携を図っています。単なる事務連絡にとどまらず、教育の方向性を共有する機会としています。

さらに、小学校と中学校の連携としては、教科・領域ごとの合同研究会を実施しています。例えば、国語であれば小学校と中学校の教員が一緒に部会をつくり、9年間の学びのつながりを意識しながら、年間を通して研究を進めています。

教育総務課 教育総務係 古川係長にお聞きします。先生の働き方について取り組まれていることを教えてください。

稲城市役所 教育部
教育総務課 教育総務係長 古川 直広 氏
(現・教育企画課長)

令和2年度から教員の働き方改革に計画的に取り組んでおり、現在は第3次計画の策定を進めています。

これまでの主な取り組みとしては、出退勤管理のデジタル化、学校閉庁日の設定、スクール・サポート・スタッフの全校配置、部活動の外部指導者の活用、特別支援に関する補助員の拡充などがあります。特に、スクール・サポート・スタッフなどの人的支援は学校現場からの評価が高く、効果的な施策として受け止められています。

これまでの取り組みにより、長時間勤務は着実に縮減してきました。例えば、月80時間を超える、いわゆる過労死ラインに相当する長時間勤務の教員は、令和2年度の8.3%から令和6年度には1.6%程度まで減少しています。また、月45時間を超える教員も、38%から18.7%まで減少しました。第3次計画ではこれらの割合を0%にすることも数値目標としています。

一方で、勤務時間は減少傾向にあるものの、教員へのアンケートからは、多忙感や負担感は依然として残っていることも分かっています。単に時間を減らすだけでなく、教員がやりがいや誇りを持って働ける環境づくりが重要だと考えています。

第3次計画の策定にあたっては、行政だけで進めるのではなく、学校関係者や外部有識者にも参加いただく策定委員会を設けました。その中で、「稲城市の教員にとって望ましい働き方とは何か」「教員が誇りを持って働ける環境とは何か」といった理想像から逆算して考えることを重視しています。

さらに、新しい試みとして、東京都の事業を活用し、関心を示した学校に民間コンサルタントを学校経営支援の視点で導入することも推進しています。外部の視点から学校運営の改善につながるヒントを得て、その成果を市内の学校にも広げていきたいと考えています。

稲城市については、「働きやすい」と感じている教員の声も多くあります。地域の方々の支えや、歴代の校長先生方が培ってきた学校の雰囲気などが、その背景にあると受け止めています。ただし一方で、教員の忙しさには全国的な構造的課題もあるため、今後も現場の声を踏まえながら改善を続けていきます。

長澤指導課長 兼 統括指導主事にお伺いします。ICT活用についてはいかがでしょうか。

稲城市役所 教育部
指導課長 兼 統括指導主事
長澤 慎哉 氏
(現・教育企画課教育指導担当課長 兼 統括指導主事)

GIGAスクール構想第1期からiPadを導入しており、学校だけでなく家庭でも活用しやすいことを重視してきました。児童・生徒用端末は毎日持ち帰りを基本としており、さらにセルラーモデルのため、家庭や校外学習先などでも通信環境を気にせず活用できることは大きな強みです。

活用の推進にあたっては、「教育DX推進委員会」を設け、各校の好事例の共有や、授業・校務での活用促進を図ってきました。令和8年度からは、その役割を発展させる形で、「稲城市教育課題解決型研究員制度」を新たに位置づけ、ICT教育を継続的に研究していく予定です。

また、令和7年度には東京都の「デジタルを活用したこれからの学び」の推進地区として、生成AIを活用した授業研究に取り組みました。生成AIについては、教員や職員の業務活用は進みつつありますが、児童・生徒がどのように使うべきかはまだ研究途上にあります。そのため、まずはモデル校において授業での活用を試行し、学びがどのように変わるのかを丁寧に検証していきます。

目指しているのは、デジタルを活用しながら、子どもたちが自立した学習者として育つこと、そして個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させることです。現在指導しているGIGAスクール構想 第二期では、より効果的な活用の在り方を検討していきます。

最後に杉本教育長にお聞きします。稲城市の学び場としての魅力、そしてそこで育った子どもたちにはどのような力を身に着けてほしいとお考えですか。

稲城市は、東京でありながら梨畑や田んぼが残り、子どもたちが農業や自然に触れられる環境と、新たに進出してきた企業や産業の力、その両方を生かせることが大きな強みです。古き良きものを大切にしながら、新しい時代にも対応していく、その両立が稲城市らしさだと思います。
そして、子どもたちに必要なのは、与えられたものをこなす力ではなく、これからの社会を自ら創る力だと考えています。そのためには、まず地域を知り、さらに社会や世界へと視野を広げ、今何が起きているのか、これからどうなっていくのかを見据えながら、自分の力を発揮していけることが大切です。
今後は、そうした力を子どもたちが育んでいけるよう、将来の社会や学びの姿を見据えながら、教育を考えていきたいと思っています。

稲城市教育委員会ホームページ>>>
https://www.city.inagi.tokyo.jp/kosodate/kyouikuiinkai/index.html

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