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SDGコンパスとは?5つのステップと活用のためのポイントを解説
SDGコンパスのステップ2では、SDGsの取り組みに関する優先課題を決定します。
SDGsに取り組んでいる企業のご担当者の方の中には、取り組むべき課題を決めるために、どんなことに着目すべきかわからないという方も、多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本記事では、SDGコンパス ステップ2でやるべきことを具体的に解説します。優先課題を決定する際の注意点も解説していますので、ぜひご覧ください。
目次
SDGコンパス ステップ2:優先課題を決定する
SDGコンパスのステップ2は「優先課題を決定する」です。SDGsにおいて解決すべきとされている課題は数多くあり、それぞれの問題はさまざまな場所で複雑に連動しています。どれだけSDGsへの取り組みに力を入れたとしても、一部の企業の努力だけで解決できるものではありません。
そのためSDGsを達成するには、バリューチェーン全体で取り組みを行うことが重要だとされています。バリューチェーンとは、原材料の確保から製造・販売・廃棄までのプロセスの中で、どこでどのように付加価値が生まれているのかを示す考え方のことです。
例えば、商品の販売を中心として行っている企業が、原材料の調達における問題を解決しようとしても効果は薄いでしょう。それよりも、原材料の調達における課題は担当する企業にまかせ、販売における課題解決に注力した方が効果は大きくなります。
つまり、SDGsの達成のためには、自社が何に取り組むとより効率的なのか、優先順位をつけながら課題を設定する必要があります。
SDGコンパス ステップ2でやるべきこと
SDGコンパス ステップ2でやるべきことは、次の3つです。
●バリューチェーンマッピングを行う
●指標の設定とデータの収集を行う
●優先的に取り組むべき課題を設定する
それぞれ具体的に何をすべきか、詳しく解説します。
バリューチェーンマッピングを行う
バリューチェーンマッピングとは、自社の商品に関するバリューチェーンと、それぞれのステップで発生しているSDGsに関する課題を書き出した図のことです。バリューチェーンマッピングを行うことで、自社に関連するバリューチェーンの課題を俯瞰的に確認できます。
バリューチェーンマッピングを行うときには、まず自社の商品がどんな工程で生産されているのかを図で示し、それぞれのプロセスで関わる企業などの関係者をリストアップします。
さらに、自社の商品やサービスがSDGsに直接的・間接的に影響を与える領域をバリューチェーンから特定しましょう。この作業を行う際、企業の活動がSDGsの諸課題に与える「正の影響」と「負の影響」をそれぞれ考えます。現在の影響だけでなく、将来考えられる影響についても考慮が必要です。
バリューチェーンマッピングの例は次のとおりです。
出典:SDG Compass p12
バリューチェーンマッピングにより、自社が影響を与え得る領域が特定されたら、その中でも特に自社がより大きな影響を与えられる領域を選びます。
指標の設定とデータの収集を行う
バリューチェーンマッピングを行ったら、判断基準となる指標を設定しデータの収集を行います。ここでいう指標とは、自社が行っているSDGsの取り組みを客観的に計測するためのものです。
例えば、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。」というターゲットに対する指標の例として、事業系食品ロス量が挙げられます。指標は、自社の活動と、それがSDGsの諸課題に与える影響の関係をもっとも適切にあらわすものを選びましょう。
活用できる指標の例として、SDGコンパスの公式サイトに一覧が掲載されています 。
一覧の中から選んでもよいですし、掲載されている指標を参考に独自の指標を設定してもよいでしょう。
次に、選択した指標についてデータ の洗い出しを行います。上記の例で言えば、事業系食品ロス量が指標となっているので、自社の事業の中でどれだけの食品ロスが発生しているかのデータを収集しなければなりません。
上記の例ではどんなデータを収集すればよいかわかりやすいのですが、収集すべきデータがどのようなものかわかりにくい場合には、ロジックモデルと呼ばれるフレームワークを活用すると便利です。
ロジックモデルでは、企業の活動を次の5ステップで分析します。
1.投入:業務に投入された資源のうち、SDGsに影響を与える可能性があるものは何か
2.活動:投入した資源によって行われる活動は何か
3.産出:活動から生み出されるものは何か
4.結果:産出されたものが人々にどんな変化を与えるか
5.影響: 結果から生まれるさらなる変化は何か
SDGコンパスでは、浄水用の錠剤の開発に投資している企業の、SDGsの目標3のターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水を通じた感染症及びその他の感染症に対処する」への貢献についてのロジックモデルを、次のような例で示しています。
出典:SDG Compass p14
収集すべきデータがわかったら、アンケートや現地訪問など、さまざまな方法でデータを収集します。データを収集する際には、企業の活動以外の影響による変化をなるべく排除するなど、データの質や整合性を保つ工夫も必要です。
優先的に取り組むべき課題を設定する
上記で得られたデータをもとに、優先的に取り組むべき課題を設定します。まずは、それぞれの課題に与える影響の大きさを考慮します。負の影響を低減する場合には、資源の効率化によって起きる競争力の変化や、新しい規制が生まれる可能性なども考慮しなければなりません。
正の影響を強化する場合には、アクションによって企業が成長する可能性や新しい市場の開拓などによって利益を得る機会についても評価します。
さらに、ステークホルダーへの影響も考えたうえで、取り組むべき課題が設定されます。
SDGコンパス ステップ2に取り組む際の注意点
SDGコンパス ステップ2に取り組む際の注意点としては、次のようなポイントがあります。
●バリューチェーンマッピングは各部門の担当者を集めて行う
●データの収集に労力をかけすぎない
●優先課題を設定するプロセスは文書として残す
●一度だけでなく定期的に優先課題の設定を行う
それぞれの項目について、詳しく解説します。
バリューチェーンマッピングは各部門の担当者を集めて行う
バリューチェーンマッピングの際には、さまざまな視点からSDGsの諸課題に対する影響を考えることが必要です。そのため各部門の担当者を集めて行いましょう。
各部門の担当者を集めてバリューチェーンマッピングを行うと、数多くの影響に気づけるだけでなく、アクションを起こすことによる自社への影響についても判断しやすくなります。また、バリューチェーンマッピングに参加することで、社員のSDGsに関する意識向上につながる可能性もあるでしょう。
データの収集に労力をかけすぎない
優先的に取り組むべき課題を決めるために、データの収集は重要です。しかし、データの収集に労力をかけすぎてはいけません。SDGsへの取り組みによって生み出される価値と、データ収集にかける労力のバランスを取りながら進める必要があります。
労力を減らすために、可能な限り既存のシステムを用いてデータを収集しましょう。データを収集しやすいシステムがすでにある分野から、SDGsへの取り組みを始めてみる方法もあります。
優先課題を設定するプロセスは文書として残す
優先課題の設定は、データだけを見て行うわけではありません。データを参考にしながら、事業やステークホルダーへの影響も考慮して行われます。
そのため、優先課題を設定したプロセスを文書として残しておく必要があります。文書が残っていないと、後からなぜその課題を優先課題としたのかなど、意思決定の理由がわからなくなってしまいます。
文書が残っていれば、課題設定の担当者が変わった際の参考資料としても活用できます。
一度だけでなく定期的に優先課題の設定を行う
優先的に取り組むべき課題の設定は、一度行えば終わりではなく、繰り返し行う必要があります。理由としては、取り組みを行ううちに社会や企業、そしてバリューチェーンの状況も変わっていくためです。変化した状況に合わせて、取り組むべき課題を見直さなければなりません。
課題の見直し頻度はできるだけ高いのが理想ですが、あまりにも頻繁に行うと負担が大きくなります。アクションによって影響が生じるまでの時間なども考慮しながら、優先課題の設定を行う頻度を考えてみてください。
SDGコンパス ステップ2で優先的に取り組むべき課題を決めよう
SDGコンパス ステップ2は、優先的に取り組むべき課題を決めるステップです。自社がSDGsに与える影響を考慮し、データを参考にしながら課題を設定しましょう。
優先課題を設定する際には、文書でプロセスを残すなどいくつかの注意点もあります。本記事を参考に、まずはバリューチェーンマッピングに取り組んでみてはいかがでしょうか。
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