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2024.01.17

ステークホルダー資本主義とは?メリット・リスクをわかりやすく解説

SDGsやESG投資の考え方が広がるにつれ、企業に社会貢献を求める意識が高まっています。社会貢献活動と企業の利益を両立できる考え方のひとつがステークホルダー資本主義です。

株主の利益を重視する考え方から脱し、すべてのステークホルダーに対して継続的に利益を還元するのが、ステークホルダー資本主義の考え方です。

この記事では、ステークホルダー資本主義とは何か、求められる背景や日本政府の政策との関係を含めて解説します。ステークホルダー資本主義のメリットだけではなくリスクも紹介しているため、ステークホルダー資本主義について理解を深めたい方はぜひご覧ください。

目次

ステークホルダー資本主義とは

ステークホルダー資本主義とは、ステークホルダーを中心に考え、ステークホルダーに対して継続的に利益を還元し貢献する考え方のことです。ステークホルダーとは、株主や顧客、従業員、取引先など、企業に関わるすべての人を指します。ステークホルダーを中心として考えるだけでなく、長期的な目線で考えることも、ステークホルダー資本主義の要素のひとつです。

ステークホルダー資本主義について、次の3項目に沿ってさらに詳しく解説します。

●ステークホルダー資本主義が注目される背景
●株主資本主義との違い
●ステークホルダー資本主義と新しい資本主義

●ステークホルダー資本主義が注目される背景

ステークホルダー資本主義が注目される背景にあるのが、2019年8月に発表されたアメリカの経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」の声明です。この声明では「アメリカの経済界には、株主だけではなく従業員や地域社会を含むすべてのステークホルダーに経済的な恩恵を与える責任がある」と主張されています。

アメリカでは、リーマンショック以降格差の拡大が問題となっており、企業に対して格差の解消に向けた取り組みが求められていました。そうした背景もあり、この声明には180を超える主要企業のトップが署名をしています。

また、2020年1月に行われた世界経済フォーラムでは、ステークホルダー資本主義を主題とした「ダボス・マニフェスト2020」が発表されました。

さらに、SDGsやESG投資の考え方が広がっていることも、ステークホルダー資本主義が注目されるようになった背景のひとつと考えられています。

●株主資本主義との違い

株主資本主義とステークホルダー資本主義の違いは次の通りです。

株主資本主義

企業は株主の利益に貢献できるよう活動する

ステークホルダー資本主義

企業はすべてのステークホルダーの利益に貢献できるよう活動する

株主資本主義とは、会社は株主のものであり、企業は株主の利益に貢献できるよう活動すべきだという考え方です。従来アメリカで主流であった考え方で、ステークホルダー資本主義と対になるものといえるでしょう。

株主資本主義では、株主の利益を追求するあまり、企業が短期的な利益を追い求める傾向にあります。株主以外のステークホルダーの利益を軽視してしまうケースも少なくありません。

株主だけを重視して短期的な目線で利益を追求するか、すべてのステークホルダーを中心として考え長期的な目線で経営するかが、株主資本主義とステークホルダー資本主義の違いです。

●ステークホルダー資本主義と新しい資本主義

「新しい資本主義」とは、岸田政権が掲げる経済政策です。

「市場に任せればすべてうまくいく」という新自由主義の考え方から脱却し、成長と分配の好循環を作るというのが、新しい資本主義の考え方です。新しい資本主義は、現在生じている次のような弊害を是正するものとされています。

・格差や貧困の拡大
・中長期的投資の不足
・持続可能性の喪失
・都市と地方の格差

新しい資本主義の考え方は、ステークホルダー資本主義の考え方に沿ったものといえます。

ステークホルダー資本主義のメリット

ステークホルダー資本主義には、次のようなメリットがあります。

●社会課題の解決につながる
●従業員の働きやすさが向上する
●新たなビジネスを創出できる可能性がある
●ステークホルダーからの信頼獲得につながる

それぞれ、詳しく解説します。

●社会課題の解決につながる

ステークホルダー資本主義への取り組みは、格差拡大や自然環境への悪影響といった社会課題の解決につながります。ステークホルダー資本主義の考え方が広まることによって、企業には社会課題解決のための貢献が求められるためです。

とはいえ、利益を上げなければ企業として存続できません。また、株主もステークホルダーの一部であるため、利益を無視して社会貢献活動だけを推進することはできません。

ステークホルダー資本主義では、株主も含むすべてのステークホルダーを重視します。そのため、ステークホルダー資本主義に基づいて企業活動を行うことで、企業は社会貢献と利益を両立できるのです。

●従業員の働きやすさが向上する

ステークホルダー資本主義の考え方に沿った経営の実施によって、従業員の働き方も向上します。なぜなら、従業員もステークホルダーの一種であるためです。

働きやすさ向上のためには、金銭的な待遇の向上はもちろん、多様な働き方を認める制度の導入や、公平な評価制度の整備なども重要です。多くの人材が公平に仕事に就けるようになり、雇用の格差や労働問題の改善につながる可能性も期待できます。

このように、ステークホルダー資本主義に沿った経営によって、従業員が働きやすい環境の構築が可能です。

●新たなビジネスを創出できる可能性がある

今までと違った視点で経営に取り組むことで、新たなビジネスを創出できる可能性があります。

これまでは、株主を重視するあまり短期的に結果が出るビジネスが重宝されてきました。

しかし、ステークホルダー資本主義では、ステークホルダーに対して長期的に利益をもたらすビジネスが重要視されます。そのため、環境問題や社会問題解決に貢献できる、新たな商品やサービスを開発・提供するきっかけになるのです。 例えば、リサイクルプラスチックを使ったペットボトルの開発や、家具や住宅などのリペアサービス事業の展開など、さまざまなビジネスが生まれています。

●ステークホルダーからの信頼獲得につながる

ステークホルダー資本主義の考え方は、地域社会や従業員への貢献も重視するものであるため、ステークホルダーからの信頼獲得につながるのもメリットです。

企業利益の追求のみを優先して何かを犠牲にする、というトレードオフにならないように事業を実現することで、サステナビリティやSDGsへの貢献にもつながるでしょう。

また、すべてのステークホルダーへの貢献を基本とするため、コンプライアンス上の問題を抑制できるのもポイントです。

さらに、社会貢献活動の内容や成果を、広報活動や投資家への報告にうまく盛り込むことで、ステークホルダーからの信頼獲得につながり、結果として企業価値の向上も期待できます。

ステークホルダー資本主義のリスク

ステークホルダー資本主義には、次のようなリスクもあります。

●企業間での評価に格差が生まれやすい
●単なるパフォーマンスだと批判される可能性がある

それぞれ、詳しく解説します。

●企業間での評価に格差が生まれやすい

ステークホルダー資本主義の考え方をもとにした取り組みは、企業間での評価に格差が生まれやすい傾向があります。

同じ取り組みを行っていたとしても、広報に力を入れられる企業は取り組みを評価されやすいでしょう。一方、そうでない企業は取り組みを知ってもらう機会が少なく、評価されにくくなってしまうのです。

ステークホルダー資本主義を取り入れるのであれば、同時に広報にも力を入れる必要があります。

●単なるパフォーマンスだと批判される可能性がある

真摯にステークホルダー資本主義に取り組んでいるにも関わらず、単なるパフォーマンスだと批判されてしまう可能性もあります。

これまで、社会貢献活動をしてきた企業は数多くあります。しかし、依然として社会問題の抜本的な解決には至っていないのが現状です。そのため、社会貢献活動は評価を得るためのパフォーマンスだと捉えられてしまう可能性も否定できません。

ステークホルダーから理解を得るためには、地域活動への貢献や労働問題の是正、働き方改革の推進など、身近な問題の解決に取り組み、成果を出すことが大切です。

ステークホルダー資本主義の考え方を知っておこう

ステークホルダー資本主義とは、すべてのステークホルダーに対して長期的に利益を還元しながら企業活動を行う、という考え方のことです。日本政府も、ステークホルダー資本主義の考え方を取り入れた「新しい資本主義」を経済政策として掲げています。社会課題の解決にもつながるため、今後主流となる可能性を秘めた重要な概念です。ぜひこの機会に、ステークホルダー資本主義に関する知識を深めておきましょう。

株式会社NOLTYプランナーズ